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公共図書館の障害者サービス〜京都府立図書館の事例を中心に

2009年11月19日 京都府立図書館 仁科豪士

1 障害者サービスとは

 (1) 図書館の障害者サービスとは
   図書館の利用に障害のある人に全ての資料、全ての図書館サービスを提供すること

 (2) 図書館利用の障害
  @物理的障害
   身体障害のほか入院、施設入所などの理由で来館できない。
   来館できても書架の間を自由に移動できない、高いところにある資料をとることができない等。
  A資料をそのままでは利用できない障害
   視覚・聴覚・上下肢障害やディスレクシア(読字障害)などにより、そのままでは図書館の資料が利用できない等
  Bコミュニケーション障害
   図書館サービスを利用する際、図書館員とのコミュニケーションが困難等


2 京都府立図書館の障害者サービスの沿革

  1970年:4月、東京都立日比谷図書館で録音図書の製作・貸出、対面朗読を開始
      →点字図書館の蔵書には学術書等の専門書が少なく、これら専門書の提供は文部省管轄の図書館の業務であると考えられていた。このため、視覚障害のある学生を中心に、公共図書館での障害者サービスの実施を求める声が高まっていた。
   70年代:大阪府立夕陽丘図書館などで対面朗読開始
   80年代:京都府立図書館でも対面朗読、点字・テープ図書の貸出などを開始
   97年:4月、新館の建替整備のため本館を休館
  2001年:5月、新館オープン、対面朗読室2室で視覚障害者サービス再開
  2002年:対面朗読の利用促進などを図るため、利用制限の緩和など制度の見直し実施(原則として利用回数の制限廃止等)
        規程類の整備、点字版・拡大文字版の利用案内の製作
  2003年:4月、近畿郵政局長から「盲人用録音物等発受施設」の指定を受ける
      →視覚障害者を対象に郵送による音声資料(カセット、CD)の貸出し開始(郵送料無料)
  2004年:市販のデイジー資料の購入、貸出開始。
      墨字版・点字版の「所蔵デイジー資料目録」の作成、利用者への配布開始。
  2007年:図書館HPへの「所蔵デイジー資料一覧」「新着デイジー資料一覧」の掲載開始。
  2009年:3月、デイジー版、墨字版の「所蔵音声資料目録」作成。府内の市町村図書館・読書施設、府立盲学校、視覚障害者施設等に配付。
        4月、府立盲学校への連絡協力車の運行開始。


3 京都府立図書館の障害者サービスの内容及び利用状況について

 (1) 障害者サービスの内容
   詳細は、利用案内参照
   ・図書館HPのユニバーサルデザイン化(ウェブ・アクセシビリティ支援ツールによる文字拡大・音声読上げ・表示色変更 ふりがなつきページの掲載等)
   ・ 施設・設備の整備(視覚障害者用誘導ブロック、誘導鈴、多目的トイレ、車椅子用閲覧席等の設置)
   ・ ファックスによる調査相談の受付
   ・ 貸出冊数、期間の配慮(身障手帳等所持者は10冊、1ヶ月間)
   ・ 対面朗読
   ・ 点字、音声資料(テープ・CD・デイジー資料)、大活字本の貸出
      (大活字本は障害の有無に関わらず誰にでも貸出)
   ・ 国立国会図書館学術文献録音サービス申込み受け付け
   ・ 拡大読書機、音声読書機の利用
  <音声資料所蔵状況>
   テープ: 881タイトル(2008年12月31日現在)
   CD:  588タイトル(     〃     )
   デイジー:607タイトル(2009年10月31日現在)

 (2) 2008年度利用状況(括弧内は2007年度利用状況)
  <対面朗読>
   実施回数:48(47)
   実施時間:96(94)
  <音声資料の貸出(単位はタイトル)>
   テープ:  30( 34)
   CD:  281(311)
   デイジー:235(141)
   合計:  546(486)


4 他館で行われている障害者サービスの事例

  ・ 障害者用冊子小包などを利用した墨字資料の郵送貸出
  ・ 資料の宅配サービス
  ・ 点字、録音資料の製作、貸出
  ・ 点字絵本、触る絵本、布の絵本の製作、貸出
  ・ 視覚障害者のパソコン利用サービス(インターネット閲覧、点字図書の利用、デイジー資料の試聴、電子ブックやCD-ROMの利用 等)
  ・ 視覚障害者を対象としたデイジー再生機、パソコン等読書支援機器の利用講習会
  ・ 盲聾者を対象としたパソコン講習会
  ・ 聴覚障害者用字幕付きビデオ(DVD)の製作・貸出


5 デイジー(DAISY)について

  デイジー(DAISY)とは、「Digital Accessible Information System」(アクセシブルな情報システム)の略称。デジタル録音図書製作のための国際標準規格。
  デイジーには、
   ・CD1枚に最大50時間程度の録音データの収録が可能
   ・ 聞きたい箇所への移動やしおり付けが容易
   ・ 音質が劣化しない
 などの利点がある。
  AV資料のデジタル化が進む中、カセットテープの入手が困難になる事態を見越して日本、スウェーデン、イギリスが中心となって開発。
  1997年の国際図書館連盟コペンハーゲン大会で、デジタル録音資料製作用システムの国際標準規格として制定。
  音声とテキストや画像を組み合わせた資料(マルチメディアDAISY)の製作も可能で、視覚障害だけでなく聴覚や肢体、知的、学習障害など広い範囲の障害者に利用可能な資料づくりをおこなうことができる。
  デイジーの詳細については、(財)日本障害者リハビリテーション協会のHP
    http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/
 を参照してください。
  また、デイジー図書のインターネット配信サービスについては、びぶりおネット
    http://www.iccb.jp/biburio/biburio_main.html
 を参照してください。


6 著作権法第三十七条の改正について

 (1) 点字資料の製作(三十七条、同二項 改正なし)
   資料の点字による複製(点訳)は、だれでも自由に行うことができる。(三十七条)
   また、点訳データのCD-Rなどへの保存やインターネット配信も自由に行うことができる。(同2項)

 (2) 録音資料の製作 (三十七条三項 2010年1月1日施行)
現行 改正後
・ 点字図書館等政令で定める施設は、専ら視覚障害者の利用に供するため、公表されている著作物を著者の許諾なく録音し、貸出、又はインターネット配信することができる。

※公共図書館は、「政令で定める施設」に含まれないため、視覚障害者用録音資料の製作やインターネット配信を行う際は、著作権者の許諾が必要となる。
・ 製作できる資料をマルチメディアデイジー、拡大文字、テキストデータ、触る絵本などに拡大。

・ 無許諾で録音資料等の製作や複製、譲渡、インターネット配信を行うことができる施設に国会図書館、公立図書館、大学図書館、学校図書館等を追加(見込み)

・ 利用対象者を、知的障害やディスレクシアの人など活字による読書が困難な人全体に拡大。

※既に録音資料が出版されている作品について、新たに音声化したりインターネット配信する際は、著作権者の許諾が必要となる。

 (3) 字幕、手話付きビデオ(DVD)の製作(三十七条の2 2010年1月1日施行)
現行 改正後
・ 聴覚障害者情報提供施設等政令で定める施設は、聴覚障害者の利用に供するため、著作権者の許諾なく放送番組に字幕を付け、インターネット配信することができる(リアルタイムに限られる)。

※公共図書館は、「政令で定める施設」に含まれないため、聴覚障害者用字幕付きビデオの製作や貸出を行う際は、著作権者の許諾が必要となる。
・ 放送番組に加え発表済みの映画などにも字幕や手話を付けられるようにし、複製も認める。

・ 聴覚障害者のため映画に字幕や手話を付け、貸出を行うことができる施設に国会図書館、公立図書館、大学図書館、学校図書館等を追加(見込み)

※既に字幕や手話付きビデオが市販されているものについて、新たに字幕や手話を付けたりインターネット配信する場合は、著作権者の許諾が必要となる。




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