第231回 情報図書館学学習会記録
日時:平成28年3月11日(金)午後6時30分〜8時00分
参加者:9人
内容:「 近畿病院図書室協議会 共同リポジトリ"KINTORE"の構築 」
発表者:藤原 純子(洛和会音羽病院図書室)
1.近畿病院図書室協議会(病図協)の概要
・病図協には西日本各地の144機関が加盟しており、内訳は病院107、大学3、専門学校2、その他2である。
・資料の相互利用(ILL)をはじめ、年5回の研究会等の他、出版活動も行っている。
・病図協HP:http://www.hosplib.info/
・会員のコミュニティーサイト:http://hosplib.info/community/
・近畿病院図書室協議会共同リポジトリ KINTORE:http://kintore.hosplib.info/
2.病院図書室ってどんなところ?
・院内に設置され、主な利用者は医師、看護師、コメディカル(医療従事者)などの職員である。患者も利用できる場合もある。
・図書館司書が担当、または事務職員が兼務する場合がある。1人職場であることがほとんど。近年は派遣やパートも増加してきた。
・所蔵資料は医学、看護図書が主で、図書より雑誌の需要が高い。
3.KINTORE(近畿病院図書室協議会共同リポジトリ)とは
・“Kin”ki Byoin “To”syoshitu Kyogikai Kyodo “Re”positoryの文字を取った略称で、図書館や職員を鍛えて強くといった意味が込められている。キントレと読む。
・各館が論文・記事等の成果物をKINTOREに登録し、学術機関リポジトリデータベース(IRDB)にハーベストされる。
・システムはDspace SaaS版。
・全世界の研究者・企業・学生・市民はCiNii、JAIRO等を検索することによって、KINTOREに登録された論文の全文記事に無料でアクセスすることができる。
・病図協会員機関であることが参加要件で、所属施設の承認のうえ申請する。参加費は無料。現在12機関が参加している。
メリット
・医師、看護師等は、日々の仕事の合間に論文を執筆している。より多くの人に論文を読んでもらえることは、研究成果、研究者自身を世界へアピールできる機会である。
・患者を含む社会は、より簡単に医療情報にアクセスできるようになり、主治医や病院の研究成果を見ることで、より安心して治療にのぞめる。
・施設は、研究成果を公開することで社会への説明責任を果たし、信頼性の向上につなぐことができる。
・病院図書館員の存続意識の向上。図書館員は、直接治療できない分、情報を提供することで役に立てる。
・病院紀要、雑誌の灰色化防止。新たな研究支援や、望ましい学術情報流通のあり方へ貢献できる。
4.オープンアクセスをするということ
・1990年代後半から徐々に冊子体から電子ジャーナルへの移行が進んだのではないだろうか。
外国雑誌の高騰化
・毎年6%程度の値上がりが続いている。
・大学図書館でも電子ジャーナルの契約を見直し、削減する大学もある。
・ジャーナル本体の値上げと、消費税増税、円安による為替値上がりに加え、昨年までは消費税非課税だったものが今年から8%課税されることになったのも原因である。
・学術情報は"読まないと書けない"。このまま高騰が続くと買えなくなり読めなくなる、という悪循環が現実に起こっている。
学術情報を公開する手段
・図書や雑誌に掲載する。ただし出版社から出せるのは一握りである。出版社主導の学術情報流通を変革するにはどうしたらいいか。
・オープンアクセス誌に投稿する。(Gold OA)費用は著者、機関、学会などが負担する。
・リポジトリで公開する。(Green OA)世界中のデータベースから検索され、学術情報としてアクセスされる。
病院紀要という灰色文献
・病院発行誌には雑誌、紀要、年報等があり、KITOcat(医学図書室の所蔵雑誌目録)とCiNiiで検索したところ、前者では261件、後者では394件がヒットした。
・KITOcatにはNACSIS-CATにないデータも独自に書誌作成しているため、お互いのデータは重複していないものもある。また、両方に登録されていないものもある。
・病院紀要や発行誌は、発行部数が少なく所蔵を公開している館が少ない。
・商業誌、学会誌に比べて、特殊な症例や多職種の業務に関する原著論文や報告記事が多く、学生や看護研究に需要はある。
病院の灰色文献をオープンに
・なんのために発行しているのかを考えると、お金儲けのためではなく研究成果や業績の公開のためといえる。
・無料で発行している論文を、学生たちはお金を払って取り寄せている現状がある。
・需要を認識でき、研究支援する立場である病院図書館員として見過ごせない。
5.開設に向けての取り組み
・第29回医学情報サービス研究大会(2012年8月)への参加をきっかけに、意義を理解するところからスタート。
・問題点としては、職場の理解を得られるか、雇用身分によっては上層部へ意見を言いにくい現実、人手不足、システム構築の予算がないことがあげられた。
・単独では難しいが、共同リポジトリならできるのではということで、メーリングリストや研修会での呼びかけを開始した。費用は病図協の会費から捻出。
2014年、開設に向けてプロジェクトチームを発足。
・会員の現状調査アンケートにはじまり、会誌に用語解説を載せるなどしてリポジトリの認識率を上げていった。
・実務研修の場では、実際に論文をデジタル化する方法や、論文執筆者への許諾の取り方についての研修を行った。
・スタート後もメーリングリストでの学びや、毎年3月に行われる総会での活動報告と意義の周知を継続している。
・2015年4月にリポジトリ部を発足。6月には開設案内のポスター等を発送しWebサイトも開設した。
・2015年12月に会誌「病院図書館」を登録し、2016年1月"KINTORE"公開。
6.公開と現状そして、今後の展望
・公開1ケ月後のダウンロード数はKINTORE全体で5991件。内「病院図書館」は4594件、「洛和会病院医学雑誌」1195件である。
・今後の取り組みとしては、「病院図書館」創刊号からのバックナンバーの公開と、会員施設の発行誌の更なる公開。
・また、なぜ日々の業務で忙しい中リポジトリに取り組まねばならないのかについての説明と共に、オープンアクセス推進のための情報発信は今後も続ける。
●質疑応答
Q:近畿病院図書室協議会の出版物について。
A:会誌『病院図書館』を年2回で発行している。最新号はリポジトリにアップしていない。
Q:病院発行誌ではなく、病院所属医師個人の著作のみのリポジトリへの登録はあるのか。
A:商業出版物の登録は今のところないが、著者と出版社の許諾があれば可能である。
Q:PDF化の負担は。
A:「病院図書館」は業者にPDF化を委託した。ただし、表紙と目次、論文ごとの切り分けは図書館員が行う。実際の作業時間は1誌10分程度か。
出版社が論文のPDFデータを持っている場合もある。
Q:近図雲の更新頻度ついて。
A:イベントがある度にほぼ毎月更新。会員相互の親睦も兼ねている。
Q:オープンアクセスの捉えられ方について。
A:書き手である医師はかなり肯定的。すでに発表されているものに許諾を取る感じである。論文が引用率をあげることにもにも貢献され、医学の今後にも役立つ。
Q:許諾について。
A:病図協HPで「著者に許諾を取る文書例」や、学会の許諾情報をUPしている。
Q:医師、看護師への連絡方法は。
A:発表者所属施設ではeメールはあまり見ないため、許諾用紙にサインするだけで済むよう準備して、あえて紙媒体の院内便で連絡した。
退職者についても返信用封筒に切手を貼ったものを同封して手紙で連絡している。
会誌等に複製権、公衆送信権についての記載を加えると、掲載時に許諾も取れる仕組みになった。
Q:次の一手は。
A:カレントアウエアネスEの記事。医学情報大会での続報を発表。引き続き会員への周知に努める。
Q:検索について。
A:OCR化しているため、全文より検索できる。
Q:近畿以外の病院図書室でのリポジトリ実施について
A:日赤図書室協議会は先がけである。他には大学を主体にしているところがある。
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