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第228回 情報図書館学学習会記録


日時:平成27年10月23日(金)午後6時30分〜8時00分
参加者:8人
内容:「 東寺百合文書のこれまでとこれから 」
発表者:岡本 隆明(京都府立総合資料館)

東寺百合文書(以下、百合文書)を所蔵している京都府立総合資料館では、歴史資料課と文献課で利用者サービスを行っている。
百合文書は発表者が所属する歴史資料課が担当しており、主に図書資料を扱う図書館司書に向けての説明は初めてではないか。
2015年10月にユネスコ世界記憶遺産に登録された百合文書について、利用する観点から発表してもらった。

百合文書とは
・加賀藩主前田綱紀(1643〜1724)が寄進した桐箱にはいって伝わったので、その桐箱の数(一合、二合…と数える)により百合(ひゃくごう)と呼ばれている。
・現存する東寺の文書にはこの百合文書のほか、東寺文書(東寺所蔵)、教王護国寺文書(京都大学所蔵)などがある。

保存の様子
・昭和42年京都府が所蔵する直前の写真を見ると、真上から箱の中を撮影している様子や、搬入の様子からも今とは違ってまだ大らかな扱いだったのではないかと想像する。
・現在は桐箪笥に収められており、一枚ものは帙に入れ、巻子等は引き出しに入れられている。
・収蔵庫には限られた職員のみ入室が可能。

古文書とは
・時間がたって、本来の目的とは違う使われ方をするようになった文書・書類が「古文書」ではないか。
・書くための準備として、現在はパソコンを使いワード等のソフトを立ち上げるだろう。20年前なら紙とペンか鉛筆か。
・江戸期なら、紙を調達し墨をするところから準備しなければならないのでは。しかも一枚の紙に収まるように計算して書き始めたのではないか。
・文書は「使う」→「保管」もしくは「放置」→そして「破棄」または「再利用」という流れをたどる。
・この「再利用」で本来の目的とは違った、例えば歴史の研究のために使われることが「古文書」となるのではないか。
・学問の世界では「古文書」とは役割や機能で決まるので、編纂物や日記はそれに当たらないと考えられている。
・押し入れで見付けた新聞を読んで昔をなつかしむといった本来の目的とは違う使われ方を「古文書」とするならば、現代でも古文書は日々生まれていることになる。

利用について
・百合文書は昭和42年に文化財保護の目的で京都府が購入し、十数年かけて目録を作成。昭和58年に写真帳での公開が始まった。
・平成25年のデジタル化まで約30年間、利用方法はあまり変わっていなかった。
・百合文書の閲覧目的は研究のためがほとんど。写真撮影等の利用目的は、論文への図版掲載、展覧会の広報、教育番組で使用等がある。
・最近でこそ一般にもわかりやすく公開しようといった取り組みがあるが、もっぱら対象は研究者である。
・検索については冊子目録しかなかった頃にくらべると、「東寺百合文書Web」は年代で探せるようになり便利になった。
・Web公開する前は諸手続きも来館が必要で、複製物は紙媒体、申請も紙に書いてもらっておりすべてが紙だった。

なぜデジタル化するのか。
・2013年7月のWeb検索結果を紹介。“東寺百合文書”と入力して京都府立総合資料館がトップページに出てこない。これをなんとかしたい。
・デジタルデータ同士はコンピューター上で関連づけることができる。ただしその関連づけ作業は人の仕事である。

デジタル化されていないと→ されていると → 条件
・来館しなければならない。→ 足を運ばなくても見ることができる。→ Webサイトの構築が必要。
・百合文書の写真帳はA4サイズで485冊ある。→ 必要な文書を簡単に持ち運べる。→ コピーの配布が可能であれば。
・必要な文書の抽出作業に長時間かかる。→ 短時間でファイルの検索可能。→ 目録とファイルの対照手段の整備が必要。
・年代順に並べたり、目録帳にならべなおしたりがとても大変。→ クリックするだけで可能→ きちんと設計されたWebサイトならば。
・複製にも労力とコストがかかる。→ コピー操作だけ→ 自由な複製が認められるならば。

デジタル化自体よりも
・利用者から見て「どう使っていいのか、どう使ったらだめなのか」を明確にして公開しなければならない。
・CC‐BYクリエイティブコモンズ2.1日本ライセンスを適用したことによって、百合文書Webのコンテンツを利用している旨の表示をすれば、複製や出版物への掲載、再配布が可能になった。
・アドレスバーに文書を特定できるURLがあらわれる。このアドレスを利用者に伝えることで文書の特定が容易になり、掲載希望の手続きもスムーズに行える。

百合文書Webの使われ方
・一ケ月に、百合百話は数千件。文書詳細画面は数万件。ダウンロードが千件程度だったが、2015年9月に130万件を超えることがあった。

ユネスコ世界記憶遺産とは
・文書等の記録の保存を促進すること。多くの人がアクセスできるようにすること。それら記憶遺産の存在や重要性を広く知ってもらうこと。
・資料へのアクセスとは、展示などの方法で資料の実物を見る機会を提供することだけでなく、複製を作成・公開することでより多くの人が利用できるようにすることも含む。
・複製の作成や公開には古文書の翻刻、影印も含まれる。これらのことはこれまで百合文書がやってきたことである。

これから
・新総合資料館の開館に伴い、新環境での閲覧、展示について計画しなければならない。現時点では決まっていない。
・デジタル化と公開。人物や事件について検索できるようにするには目録の整備が必要。
・翻刻出版はいままで通り継続か。


質疑応答

Q:一か月に130万回のダウンロードがあると回線等に影響しないのか。
A:130万は特異な例だが、多数が一斉にダウンロードすると当然負荷がかかる。
ただし、百合文書Webでは同時アクセス数が少ないため今のところ影響はない。

Q:ログの解析について。
A:ログ解析ツール使っている。個人の特定はできないが、どういうアドレスから発信したかはわかる。
また、アクセスする時間帯がいつも同じといった特徴をつかむことができたり、ウインドウズ95からのアクセスもあることが分かった。

Q:Webサイトでリンク切れを起こさないといった配慮について。
A:百合文書Webは文章をUPするまでの職場内の決裁を課長までにするなど、修正や更新するまでの時間を短くしている。
いわゆる役所っぽいウェブサイトにならないようにしたい。いろいろな人が文章に手をいれることは、結局皆が自分の仕事ではないと思ってしまうことにもなる。
紙媒体で発行している館の情報誌とWebとは違う。

Q:もしもCC‐BYがなかったら
A:公開の基本的な考えは同じだが独自にルールを文章化していったと思う。
独自のルールは作るのが大変である上、利用者にとってもわかりにくいものになってしまうおそれあり。

Q:東寺に関する他の文書の利用について
A:東寺所蔵の文書は寺の宝物であり、教王護国寺文書は学内で研究目的で使うことがメインである。百合文書は、それとは違って公の所蔵であり広く利用されることが重要。だからウェブでの公開に適している。




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