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第223回学習会記録


日時:平成27年2月20日(金)午後6時30分〜8時00分
参加者:5名
内容:「図書館システムと図書館の自由〜『みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由:連続セミナー2013記録集』から
発表者:奥野吉宏(京都府立図書館)

■自己紹介
 大阪府茨木市出身。大学卒業後、茨木市立図書館で臨時職員として勤務した後、島根県斐川町に司書として採用された。図書館未設置であり、図書館準備室に配属されたが、新図書館にはICタグが入ることが決まっており、新図書館と学校図書館のシステムを担当していた。その後、斐川町は出雲市に編入され、引き続き図書館に勤務したが、他社システムへの移行(バーコード貼り替え等)も担当した。
 昨年度、京都府に採用され、府立図書館に勤務している。今年度からシステム担当となった。
 このような経歴もあり、いろんな会社のシステムを扱ってきた。
 また、今年度より日本図書館協会の図書館の自由委員会の委員となっている。

■始める前に
 2013年4月〜11月に「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由とは?」という連続セミナーを実施した。その記録集が10月に発行されている。セミナー開催時点では自由委員会の委員ではなかったが、プレ企画より後は関わってきた。

1.「システムと図書館の自由」を考えるきっかけ
 『図書館界』65巻2号(2013年7月)は、第54回研究大会「ネットワーク時代の図書館とプライバシー:なぜ守る?どう守る?」の特集となっており、ここで自分が発言した内容が収録されている。
 当時、自分が勤務する図書館で使用していたA社のシステムでは、所蔵データの端っこに最終利用者のカード番号が書いてあった。導入当初、A社に対して「良くないんじゃないか」と話をしたら、「仕様です」と言われた。最終利用者の履歴だけが残っていて、上書きされるものだと思っていたら、A社とのやり取りの中でどうもすべての履歴が残っているということが分かった。全件の貸出履歴を消すよう依頼し、消去してもらった(最終利用者だけは表示されてしまう)。そうするとベストリーダーの帳票が出なくなった。
 このシステムの次期バージョンでは、職員がカードの番号を読み込めば、これまでの貸出記録が打ち出せるようになっていた。これは、違う方向へ行っていないか。それでいいのかなと思った。大学時代に学んだことと全く違う方向へ向かっていると感じた。図書館システムはそういう形でいいのかと考えるきっかけになった。
2.図書館システムの"違い"
 公共と学校のシステムを管理する仕事を長年やってきたが、館種によって考え方が違う。
 公共系は、図書館員が知らないうちに貸出履歴が残されているシステムに変わっていることを知る必要があると考える。利用者から自分の貸出履歴を求められる場合、履歴は残してないと答えていたが、実はシステムはそうではなかったということもある。システムベンダーの考え方の違いもある。
 最初から指導のために作られている学校系システムでは、図書館システム導入を主導するのは司書教諭や教務主任が多い。先生の性かもしれないが、子供の記録はなんでも取っておくという考えが根底にあるようで、指導のために必要なデータだから取っておく。出来る限り残るようにという前提で考えられている。
 しかし、以前から司書が全校配置されている岡山市の学校のように、システムを導入するときに貸出履歴を残さないようにすることに苦労して取り組んでいるところもある。ただ、それだと他の学校図書館に売れないので、オプションとして履歴を残す機能がある。
 自分が勤務していた自治体の学校図書館システムも履歴が残っていた。6年間何を読んできたかが残ってしまう。その画面は管理者権限を持つパスワードがないと閲覧できないが、図書委員などになると入れてしまう。臨時職員の学校司書へそういう面を指導していくように話はしていたが、司書教諭や図書館担当の教員へ貸出履歴を安易に活用しない方が良いということを言う機会がなかった。
 また、学校図書館のシステムでは学校間の移行(小学校→中学校)が出来る機能もあり、例えば市立で高校を持っている場合は、12年間の履歴が蓄積されていることになる。本当にそれでいいのかと思う。
 大学系はむしろ記録を活用しようとする方向なのではないか。研究で使うのであれば必要という考えがある。図書館の自由では館種は問わないとなっているが・・・。個人情報は管理しているのだから使っていけばよいという方向へ向かっているのではないか。

3.「ネットワーク時代の図書館の自由」で知ったこと
○第3回 カーリルの吉本さんの話
 ネット上のフリーのソフトをインストールしたアンドロイド端末で図書館で使っているICタグを読ませると、入っているデータを簡単に吸い上げられる。
 ICタグに含まれている情報は、無断持ち出し防止機能としての貸し出しのON/OFFの情報、市町村コード、バーコード番号、あとプラスアルファで市町村で持たせる情報といった内容が多い。自分が勤務していた図書館で使っていた規格のICタグは容量が大きくて書名も請求記号も入っていた。
 最小限のデータだから問題ないのでは?という意見もあるが、読み取った情報とWebOPACで公開されている情報を組み合わせると、何の本か分かってしまう。
 ICタグは無断持ち出し防止用のタトルテープの代わりになるという意識が当初は大きかったが、そういう考えだけではいけない。
 ICタグに使用されるHF帯はそんなに電波は飛ばないが、UHF帯が使えるようになり、採用する図書館が出てきた。UHF帯は通信距離が長く、天井にゲートを付けておけば処理が出来たり、自動返却装置も確実に読み取れるメリットがあるが、一方で何を借りたか広範囲から読み取ることもできる。防犯カメラと合わせると誰が借りたかも分かってしまう。
 システムの脆弱性への対応について吉本氏がかなり時間を割いて話していた。個人情報が丸見えだった図書館システムについてはセキュリティがかかってないと図書館へ電話したりした。小さいところになればなるほど、担当SEに任せっきりの状態であることに警鐘を鳴らしておられた。
 何かあったときに利用者の利便性より、サーバーを止めるということを考えなければならないと感じた。緊急性を判断できるというのが最低限持つべき知識と思った。

○第4回 原田先生の話
 アプリケーションログとシステムログの切り分けが重要である。いろんな方式でいろんなデータを残している。システム障害が起きた時に復旧させたり、原因を調査するためのログは昔から取られていた。システムを管理する側からすれば必須の情報であり、こういったシステムログを残さないのはまずありえない。システムログの場合は、特定の利用者の貸出履歴を取り出すというと簡単にはいかない。
 問題になるのはアプリケーションログ。学校図書館・公共図書館で職員が触れるところにあるという問題。図書館員もその区別を分けないまま考えている。

4.図書館システムに利用記録を蓄積する必要性
 図書館総合展のセミナー「貸出履歴データ活用を考える。」において、会場からユニバーサルナレッジ株式会社の井上さんへの質問で、民間企業が貸出履歴を活用するにはどのくらいのデータ量が必要となるか?という質問があり、井上さんからは、ショッピングサイトを運営するためには100万件くらいのデータが必要でそれ以下ならあまり効果はないという回答があった。大規模自治体や府県立であっても単一ではほぼ不可能の数字である。
 また、情報セキュリティ大学院大学の湯浅氏からは、個人情報保護条例は各自治体にあるが、条例ごとに差異があり、亡くなった人を保護する対象であるかなどもバラバラである。情報をもらおうとしても自治体によって出てくるデータが違う。図書館の情報は、どこまで個人情報保護条例で保護されるのかは議論されるところ。また、データを集めて使うという制度的な難しさもあり、指定管理者はどこまで条例に縛られるのか。集めてこれるのか。指定管理が終わった後は情報は返さなければならないのか。などの問題がある。
 第2回の大谷氏からは、図書館におけるプライバシーとはという話の中で、人によってプライバシーの概念が違う。民間の場合は、先に同意があってサービスを使うかどうかの選別ができるが、図書館の場合には、それを同意しなかった人に使わせないということにはならない。貸出・予約情報を使ってサービスしてほしい人、使うなんてけしからんという人、両方とも受け入れなければならないのが公共図書館であり、すぐに情報を活用できるような状況ではない。

   個人情報で持っている情報であるなら、情報開示請求があれば、出さなければならない。ただ、データが保存されているということを図書館員が理解していない状況は良いのか。基本的に使わなくなった情報は削除するという大前提ということは、利用記録の蓄積は必要性があるのか。データを残すということは条例に反しているのではないか、同意した人だけ残す、ということは最低ラインとしてはある。ただ、活用する前提もないのに同意するということはないのではないか。
 いろんな意見がある。実際に利用してみようとすると一筋縄ではいかないいろんな課題がある。活用しないままデータが蓄積されているところに危惧を感じる。
 大学はユーザーが限られている。また、国公立と私立との考え方の違いもあるかもしれない。個人情報保護条例でも大学によって違うらしい。大学システムの実態を知っていくことが必要かと思う。

質疑応答

Q:貸出履歴のデータを消去したらベストリーダーの帳票が出なくなったとあったが、元々その帳票を使っていたのか?できなくなったことについてどう対応したのか。
A:使っていたが出なくなったのでベストリーダーの使用をやめた。小さい自治体だったので児童書は長く読み継がれてきた本が常に上位にあったり、一般書は複本が買えたものが上位に挙がってくるなど、固定的であったため使用をやめても問題はなかった。

Q:プレ企画トークセッション「図書館の自由の『理念』と『現実』?−伝家の宝刀を研ぐことは可能か−」伝家の宝刀とは何だったのか?
A:このイベントには参加していないので詳細は不明だが、伝家の宝刀イコール図書館の自由だったのではないか。
  注:リポート笠間53号に掲載されたエッセイ「錆びはじめてきた、図書館の伝家の宝刀を研ぐことは可能か」(http://kasamashoin.jp/2012/11/53_2.html)での内容に基づき岡部晋典氏など登壇者による議論が交わされた。参加者等のツイートをまとめたtogetterが公開されている(http://togetter.com/li/490191)。

Q:汚破損等の管理のために最終貸出者の履歴を残したいという、図書館側からの要望でパッケージに組み込まれている面もあるのではないか。
A:練馬区立図書館では、汚破損防止のために直近の貸出者の履歴を保存すると公表した。何日か経って消えるならともかく、データが残っていていいのかという疑問はある。

Q:汚損本対策として、データは使えるのか。よくある話なのか。
A:増えてきてはいる。規模が大きい図書館だと返却の際に1冊ずつチェックできない。ただ、館内で汚れたのかもしれないし、データとしては返却日の当日・翌日くらいのものしか使えないのではないか。

Q:自分たちはデータを取っているというのを知っているけど、一般の人はそこのところを気にしているのか。
A:武雄の時には(貸出カードとして利用されるTポイントカードでは利用履歴が企業へ渡る可能性があることについて)問題であると業界の人は言っていたのに、一般の人は盛り上がらなかった。来館でポイントもらえるならいいじゃないかと思ったり、Amazonみたいなものが普通になってきているので意識の差は大きいと考えられる。

Q:図書館で、自分が過去に借りた本を同じ本を読みたいと言われることがある。自分の履歴データを自分で活用したいという要求もあるのではないか。
A:自分のデータは自分で残す、利用者が持つということで読書通帳などのサービスもある。システム的には利用者が自分で貸出情報をダウンロードして手元に持つ仕組みは考えていく必要がある。ただ公共図書館は各館ごとにバラバラな形式である。大学はNACSISのデータを使っているからある程度そろっているが、公共図書館の場合は民間のマークの違いやマークの無いものによってデータがかなり違う。

Q:戦前の特高と内務省の検閲や思想での政治犯の歴史について知っている人が少なくなってきた。抵抗を持たない人が多くなってきたのでは。歴史教育が必要なのではないか。
A:田舎の方は書店も少ないのでネットで買う方が楽ということもある。自分の読書履歴を渡したくない人は、離れた書店でポイントカードも出さずに買うことくらいが一番安全なのではないか。

Q:戦争中の図書館史、検閲の歴史を経ての自由宣言、それが伝家の宝刀として使われたのではないか。
A:今の図書館の自由に関する宣言は確かにそこから始まっている。
技術の進歩に対して、ずっとこうやっているから変化しないということになっていないか。外部の人でデータを使いたいという人は門前払いされていると感じるのは。変えないこと自体は否定しない立場ではあるけれども、きちんと説明できないといけない。





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