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学習会記録(第219回)


日時:2014年9月19日(金) 18:30〜20:00
参加者:9名
内容:「文化資源のデジタル化とその課題」 
発表者: 福島幸宏(京都府立総合資料館)
東寺百合文書webの事業を担当した経験から、文化資源のデジタル化についての問題を提起する発表だった。

0.自己紹介

本日の概要
・概念の整理
・走りながら考えたデジタル化事業の紹介
・最終的に問題は位置を少しでも俯瞰できるきっかけを

前回の報告からの発展
・前回の発表:2009年12月に行われた第170回学習会
・MLAの垣根を越えて融合することを主張
・ただし収集とアクセス保障という観点にとどまっていた
・館/来館者の研究による資料の再生産(論文等にまとめて発表)をもう少し気軽にしても良いのではという提案をした

自己紹介
・京都府行政文書の管理・運営と新館を担当
・2005年より現職。もともとは日本近現代史専攻

MLA 複合館としての京都府立総合資料館
・1963年開館、京都に関する歴史・文化等の資料を総合的に収集
・図書、古文書、公文書、現物を多数所蔵し、国宝、重文もいくつか所蔵
・京都の記憶を体系的に読み取れる拠点
・現在新施設建設中

京都府立総合資料館の軌跡
・1988年:文化博物館開館、現物資料の管理を委託
・2001年:図書の半数を府立図書館に移管
・2007年:総合資料館あり方委員会開催
・2015年:新館竣工予定

1. 文化資源というとらえ方

文化資源の定義
・「ある時代の社会と文化を知るための手がかりとなる貴重な資料の総体」(文化資源学会設立趣意書)
・精神的な共有財産としての「文化」をつくるための資源
・つまり、MLAが対象とする資料全体→MLAの資料の共通点をどう見つけるのかを模索している

文化資源というとらえ方
・資源として残す意識。古代は強いが、近世〜戦前は特に弱いように思われる
・選別出来たらしたいという意識。近代あたりからは膨大なため、意識して残すor残った物で良い
・「パッケージ化された」文化資源:書籍や絵画、仏像、古文書など、塊となっている物は、デジタル化の対象となってきた
・プレ文化資源:未整理の紙束、書簡の塊、雑多なプリント、ノートやメモなど、塊となっておらずメタデータが無い物は、デジタル化の対象となりにくい
・世界では文化資源のデジタル化が急速に進行
・Googleの取組
http://www.google.com/culturalinstitute/project/art-project?hl=ja
http://www.google.com/culturalinstitute/project/historic-moments
ヨーロピアナ(http://www.europeana.eu/)
文化資源をめぐる日本の制度的動向(MとA)

・公文書管理法の施行:適切な管理を求め地方公共団体にも努力義務。推進担当大臣もいる。
・学芸員資格の見直し:情報・メディア論、エデュケーター(教育者)の授業を増設
・東日本大震災の衝撃:文化資源に対する大打撃、関係者間でのみ議論されていた問題が可視化
・例として、資料の現物はなくなったが、デジタル化された資料のデータは生き残った

2.東寺百合文書のデジタル化

百合文書について
・百合は「ひゃくごう」と読む。江戸期までの資料を保存
・茨城県から熊本県まで東寺が所有していた荘園(60カ所)と寺院運営の事務書類の集積
・多くは普段使いの紙に墨書、単独では断片的で全体としてみるとより意味を持つ
・現在、記憶遺産の候補となっている

整理事業
・1967年に京都府が購入し、修理作業開始
・1967〜73年:第1次修理事業
・1976〜79年:目録刊行
・1980年:公開開始、全点マイクロ化開始、重要文化財指定
・1983年:第2次修理事業開始
・1997年:国宝指定

直前の状況
・全点のマイクロ化完了、写真帳が幾つかの大学にあり
・年1回の展示など

体制・撮影作業
・当初は職員で、その後委託で実施
・1年で約80,000カットのデジタル画像を撮影
・裏が白紙であっても撮影した。方眼紙を台紙に使い、大きさがわかるように工夫

仕組みの工夫
・使えるデジタルデータの作成と流通を重視し、クリエイティブコモンズの「表示2.1 日本 ライセンス」(CC BY)にて提供
・「京都府立総合資料館所蔵」と明記してもらう
・「特段のお願い」として掲載物の提供を求める

反響・周囲の状況
・大英断などの賛意が多い
・かなりの反響を起こしたが、全て新しいという事ではない
・文化財の目録データをクリエイティブコモンズで出す試みは各地で始まっている
・Niiは目録データをCC BYで公開している
Library of the Year 2014 優秀賞に選ばれた

挑戦のポイント
・短期間でのデジタル化作業
・国宝の資料画像をCC BYで公開したこと
・成果の提供を知の循環から利用者に求めたこと

3.デジタル化の諸課題

対象資料の決定
・どのように選定するか、需要か事業目標か
・準備状況との兼ね合い

資料の整理・メタデータの付与
・ユニークな文化資源とはプレ文化資源
・この整理にこそ時間と人が必要
・深さと広さのバランスを考えたメタデータを付与する
・目録の標準化は困難。システム的に解決する道を

公開
・アクセスと利用・再利用は別概念という段階
・文化資源こそ公共財としてオープンに
・クリエイティブコモンズにこだわらず、ともかくライセンス表記をする
・できるだけ平易なシステムで

人材の問題
・全てを1人でわかる必要はないが、チームとして以下がカバーできると良い(コンテンツがわかる、DBがわかる、webの最新動向がわかる、社会状況がわかる)
・そのためのMALUI連携

その他諸々
・情報は広く共有してほしい
・いままでの画像DBのような画像を公開したのみでなく、より機能に踏み込んだ次の段階のDBが欲しい
・今のシステムはwebの動向とは別の発想から構築されている。

4.まとめ
・デジタル技術を活用することによって資源発掘をする
・資源の「棚卸し」をして、活用から保存への動きを作る
・DBやクリエイティブコモンズなど環境は整っている
・一方で、人材の問題、コストの配置転換等の多くの課題がある

Q&A
Q:資料に通常してはいけない事に留意して、デジタル化したとあるが、どういう事か?
A:保存するという観点からはしてはいけない事が多くあり、資料をなるべくそのままというのもその一つ。百合の例ではないが、個々の資料について本質を考えて、元の形を維持するか、新しくなっても問題ないかの判断が出来ないといけない。

Q:デジタル化の話が出た時期とその経緯について教えて欲しい。
A:2012年ごろから資金の目処が立ってスタートした。急に始まったので方眼紙の工夫は途中で気付いてやるなど、走りながらの作成だった。
  ただし最終的なDBのイメージは担当が持っていた。
  クリエイティブコモンズの件は担当も同じ思いを持っていたこともあり、実現した。クリエイティブコモンズ(CC BY)の適用はコストがかからずにインパクトが大きいので検討する価値はあると思う。

Q:百合文書webについて、最近のWebの動向などからこちらから提案したのか、それとも業者よりの提案か?
A:DBのイメージについては資料館から意見を出して業者に改善してもらった。

Q:実際にこのDBの画像を用いた成果物の寄贈はあったか?
A:今まで書籍への引用はある。担当としてはいろんなアイテムに使ってもらいたい。

Q:デジタル化は最近の発想か。
A:今の担当には以前からデジタル化の発想があったと思う。

Q:記憶遺産への申請は「東寺」百合文書なのか?
A:「東寺」がつくのが資料の名称。ただ、所蔵は、文化財保護を目的として購入した京都府。





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