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学習会記録(第216回)


日時:2014年5月16日(金) 18:30〜20:00
参加者:21名
内容:「同志社大学 良心館ラーニング・コモンズのエスノグラフィ」
発表者:岡部 晋典、鈴木 夕佳、浜島 幸司(同志社大学)

2013年4月に開室した同志社大学ラーニング・コモンズのこの1年を振り返る。
発表は教員スタッフと、同志社大学図書館情報学研究会(DUALIS:学部生を中心に2013年4月に結成)のメンバーも交え活発に行われた。なお一部記録には載せていない部分があり、また今回の発表は発表者の私見であり,所属全体の見解ではない。

Work1
・岡部氏の提案により、図書館員と学生とがグループになり対面できるよう座席を移動。
・前提概念を共有するための例題として”e-journal””Big Deal””Serials Crysis”の3つのタームを使って、大学図書館の直面している困難について話し合う。

おさらいとして佐藤氏より解説
・“Serials Crisis”とは“e-journal”(電子化された学術雑誌)の価格上昇。研究者等、買わざるを得ない層を当てにした値上げ。
・しかし、価格が上昇しすぎて、図書館も買えなくなったために“Big Deal”という新モデルが出てきた。
・これは今までの購読料プラスアルファの支払いで、読める雑誌数が大きく増えるというサービス。一見双方にとって良いように見えるが、実際は雑誌の値上げは続いており、結局買い支えができなくなる。これが雑誌の危機。

世の中の要求 ― 現在の大学の授業について
・単位の実質化:例えば、2単位を保証するために、週30時間の授業と60時間の自習時間を必ず行うようにする。週一休講は過去の話。
・Faculty Development(FD):大学教育スタッフの活動を良くしようという動き。主に教える側に対する改革。
・アウトカムズ主義:何を身につけてもらったかが重要。「○○を教える」ではダメ、「○○が出来るようになる」を目標にする。

ラーニング・コモンズの概要
(内部を簡単に動画で紹介)
・文系学部の今出川校地統合に伴い建設された新校舎「良心館」の2F・3F部分に設置。
・コンセプトは知的欲望開発空間。
・車座でコミュニケーションを取りながら話を進められる空間や、掘りごたつ形式、日本語禁止、飲食OKのエリアなど様々。
・人気のエリアは2時間制など、利用を制限している。
・コピーの他、名刺やオリジナルグッズ等が制作可能なスタジオもあり、デザイン料も込みで格安で利用できる。
・目的:アクティブラーニングを行う学びの場、そして正課の時間外学習における主体的な学びを支援する場であること。
・体制:学習支援のために教員3名、院生14名、図書館員1名、職員1名、国際センター1名+学生数名、ITサポート数名、プリントステーションという京都の印刷業者を配置。
・位置:図書館とラーニング・コモンズは徒歩にて1分26秒離れている。(近いのか遠いのかは人それぞれ)
・ラーニング・コモンズを図書館内に設けるところが多いようだが、立地の問題もあり、別々の建物にラーニング・コモンズがある。

スペース、アーキテクチャ、ラーニングデザイン
・スペース:空間の持つ力。
・アーキテクチャ:人間の行動をコントロールする要素の一つ。(byローレンス・レッシグ)
・ラーニングデザイン:学びは個人の活動→ソーシャル(社会)な行為であるという認識が90年代以降教育工学を中心に広がる。

Work2
ここまでの発表で、分からなかった事をシェアする。

『学び方が変わるから、学生が変わるか?』
・(セミナー風景の写真より)天井にカメラがあり、参加者もディスカッションをリアルタイムで客観視できる。
・○○の使い方を教えるといった、知識注入型の一方通行のセミナー形式から、協同学習のワークショップ形式へ。

図書館セミナーで使える協同学習法
・ジグソーメソッド=大きな課題をいくつかに分割。小さな課題を個々に与え、解決してもらう。それらを合わせて大きな課題を完成させる。
・メリット:個人では難しい事もグループで能率的に解決できる。デメリット:フリーライダーがいると完成しない。
・ラウンドロビン=例えば、ある課題について連想する短い単語や熟語を順に答えていく。→検索語のヒントになる。
・シンク・ペア・シェア=提示された質問をまずは一人で考え、その後話し合いで個々の回答とすり合わせる。Work2で実践したように、分からないことをまず隣の人と共有しておくと、大勢の前でも質問しやすくなる。
・いずれも前向きな「相互依存」を生み出す。

『学び方が変わるから、教員が変わる?』
・教員の講義に本来授業を持たないラーニング・コモンズが入り込む。正規の授業との連携。
・統計は密に取り、教員の理解を求める材料にする。
・詳細なログ(記録)を取るのには反対意見もあったが、滞在時間や質問の傾向を分析することで次のサービスに反映できる。
・ログをとることについては、ログを消すことが基本との考えの図書館員と意見の食い違いもあったが、学習効果の測定および次へのサービスへのためにメリット・デメリットを勘案して採用。
・ただ何も考えずにログを消す、のが善だとは考えていない。データは統計的に処理してこそ活用可能。

入館データから読み取れること
・試験期間前(7月、1月)に来室者数が増加。
・一年次生の利用が最も多い。
・次いで、3年次生の夏季休暇中の利用が多いのは特徴的。ゼミ開始時期や就職活動との関係か。
・学生は中央値として、大体1時間ほど滞在している。講義の空き時間を使って自学自習するパターンか。

学習相談データから読み取れること
・学習相談の体制:アカデミック・インストラクター、ラーニング・アシスタント、情報検索アシスタントの三者のチームティーチング。
・入室者学年パターンと相談者学年パターンは相似。
・学年が上がるごとに多様な質問をするようになる→様々な質問に対応可能なスタッフの必要性、専門分野をもつ院生や教員の配置が有効。
・利用頻度の高い学生ほど「主体的な学び」の意識は向上しているというアンケートのプレ調査結果が出ている。

ラーニング・コモンズでの図書館員の仕事
・エンベディッドライブラリアン:図書館とは切り離されて、そこに埋め込まれた図書館員。アウトリーチとは違う。
・アウトリーチは図書館の文法をもってして他領域にサービス。
・同志社ラーニング・コモンズの エンベディッドは「学習支援」の文脈のなかで図書館員の仕事を行う。

図書館職員への聞き取り
・自身は動きにくいこともあるが、利用者にとっては使いやすい筈なので問題はない。
・図書館勤務とラーニング・コモンズでは「調べ物のお手伝い」から「学習支援」へ意識を切り替えている。
・単発の調べものと違い、学習支援は継続して来る利用者が多い。次回の資料が準備できる。
・チームティーチングなので、自分の得意分野に注力することができる。

他部署から批判されないための対応
・正課の「補完」である。
・ティーチングではなくコーチングである。
・スタッフは正規の「教員」や「研修を受けた院生」である。

今後の課題(とくに発表者の私見)
・成果の右肩上がりを期待されるが、右肩上がりだけが学習効果なのだろうか。
・操作的に対照群をコントロールし、ラーニング・コモンズを利用した人と、そうではない人の学習効果を測定するのがサイエンスとしての手続きとしては妥当だが,教育的状況のなかで,このような研究は倫理上困難。
・学生を甘やかし過ぎではという批判が寄せられるが、これは的はずれな批判だと考えている。
・ラーニングとエデュケーションの違いを理解していないからだと考えている。
・むしろこのような批判をする人間ほど、「学ぶ」を手取り足取りしてあげることと勘違いしているのではないか。
・ただし,アクティブラーニング、ラーニング・コモンズ万能論にはちょっと距離を置きたい。
・知識注入式はそれはそれでメリットがあるはず。相補的な考え方が必要では。

『学び方が変わるから、私自身が変わった。』
・ラーニング・コモンズを理解するためにここ一年で読んで良かった本を、思想的、大学的、プレゼンスキル、レポートスキル、共同学習スキルそれぞれのテーマで紹介。
・ポイントは、ラーニング・コモンズについて直接的に書いた文献は一冊もなかったこと。

質疑応答
Q.ラーニング・コモンズが開室したことによる既存の大学図書館への影響はあるのか。
A.京田辺校地から移転してきた学部があるため比較は難しいが、統計上の利用人数は両方とも増加している。

Q.自学自習は拒まれないか。
A.一人での利用も多くいる。ただ、グループで利用できる飲食可のインフォダイナーのエリアを一人で使用するのは遠慮してもらっている。

Q.公共図書館の自習室の問題点。
A.年間を通して統計を取って、混み合う季節には座席を増やすように流動させる方法で対応した方がいいのではないか。

Q.他グループとの交流はあるか。
A.相互触発は見受けられる。例えばプロジェクターを使っている隣のブースを見て、ここで使える機材を知ったりとか。

Q.エンベディッドライブラリアンとアウトリーチ的な場合の問題は。
A.アウトリーチ的な「旧来型」ライブラリアンは利用者の秘密を守るだけの発想に縛られがち。
次のサービスのためのログ(記録)の必要性をどう説得するかは結構大変。

Q.大学図書館とラーニング・コモンズで使い方に差があるのか。
A.(利用者である学生から)ラーニング・コモンズはみんなで議論する場。自分一人で勉強する時は大学図書館や学部の図書館と使い分けている。
(発表者より)運営の面でいうと課が違うが、図書館員とラーニング・コモンズの協同セミナーを開催したりもしている。

Q.FDとしてラーニング・コモンズはどう位置付けられるのか。
A.全学部にラーニング・コモンズ的存在が広がっていくとよいなあと考えている。
そこの根拠として図書館学がじわじわ入っていけばよいなあと考えている。

Q.ラーニング・コモンズで行われる学習は必ずしも金銭等に直結するものではないし、教育的効果として有用であるとのエビデンスをどうするのか。
→所長による、社会学部を対象としたプレ的な調査で、ラーニング・コモンズの利用をするものは学習効果が増加しているという我々としては手応えのあるデータが出ている。この質問紙を基本にし調査を更に全学的に行っていきたい。

Q.大学教員へのアプローチはどのようにしているのか。
A.事前の打ち合わせをきちんと行い,会議の場での決定を持って実行に移す。

Q.大学が就職にラーニング・コモンズを役立てて欲しいという期待はあるのか。例えばディベート能力の向上など。
A.持っていると思う。ただラーニング・コモンズ自らが就職企画!として実行してすることは、キャリアセンターなど他領域を侵犯することになるし、またそもそものラーニング・コモンズのミッションである。主体的な学び、とはズレが出てくるので難しい。ちなみにディベートの相談等には乗っている。

Q.学習支援の他、就職活動にも役立てる場ではないか。卒業生としてはうらやましい。
A.OG、OBにかぎらず見学は増えた。「こんな場が学生時代にあったらなあ、悔しいなあ」と「後輩たち頑張って勉強しているなあ、がんばれ」などと両方の意見をもらっている。

Q.ラーニング・コモンズでは常駐の司書がいるが、教員と学生たちがやりとりをしているとき、資料の紹介はどのタイミングで出しているのか。
A.会話の途切れを読むように、上手いタイミングでピックアップした資料の一覧を提示。事前に準備もしているだろうが、とても絶妙。実際の書棚を眺めている訳ではないが、データ上でブラウジングしているような感じか。





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