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学習会記録(第209回)


日時:平成25年10月16日(水)
参加者:20名
内容:「人口15〜20万都市の図書館比較分析」
発表者:奥野 吉宏 (京都府立図書館)

「合併後の出雲市立図書館の統計分析」『図書館評論』54号(2013年6月)図書館問題研究会編を元に発表。
今回は京都府内の図書館も分析に加えて比較考察した。

1.発表者の紹介 
・島根県簸川郡斐川町立図書館、出雲市に編入合併後は出雲市立ひかわ図書館に勤務。その後京都府立図書館へ。
・斐川町立図書館は教育委員会所管だったが、出雲市立図書館は市長部局。京都府立図書館は教育委員会所管。

2.出雲市と図書館の紹介
・2005年3月に(旧)出雲市、平田市、簸川郡佐田町、多伎町、湖陵町、大社町6市町が新設合併。
・斐川町は人口28,700人。2011年10月斐川町が出雲市に編入合併し、人口171,000人となる。
・斐川町合併後の出雲市は、京都で例えると、人口では宇治市よりひとまわり小さい。面積では、京北町合併前の京都市よりひとまわり大きい。
・斐川町には名所に弥生時代の銅剣等が発掘された荒神谷遺跡、湯ノ川温泉等がある。
・斐川町の誘致企業として、村田製作所、富士通等。富士通のノートパソコンは斐川町で製造されている。
・出雲市は合併前に津山市(岡山県)・諫早市(長崎県)は三市友好交流都市提携を結んでいる。(合併後も継続)
・出雲市立図書館:2市4町合併後に未設置地域にも1館設置することで、旧市町毎に1館となり計7館体制となった。
・中央図書館(旧出雲市立図書館)は駐車場が足りない程の車社会である。路線バスも不十分。自転車利用は中高生くらいまでか。
・斐川町立図書館(合併前・19年度)は職員11人(正規5人)中、司書9人。図書館利用者登録率41%
・合併後、今年度より、ひかわ図書館は正規職員0。窓口業務等は嘱託職員化されている。

3.統計分析
比較対象は42市
・2010年10月の国勢調査で人口15万人以上20万人以下の48市に、2012年10月までに市町村合併があった2市を加えた。
・合併により20万人以上となった1市を除外。
・比較の条件を近づけるため、市域内に都道府県立図書館が所在する6市を除外。
・東日本大震災の影響で統計が不完全であると判断した1市も除く。

相関係数のグラフを元に様々な角度の統計@〜Dから分析
・図書館に関する統計は『日本の図書館』日本図書館協会刊による。
・可住地面積は「政府統計の総合窓口統計でみる市区町村のすがた2012 B 自然環境」による。
・財政力指数は『データで見る県勢2012』矢野恒太記念会刊による。

@貸出・予約統計
<1人当貸出冊数と可住地面積> 負の関係(可住地面積:農地や道路も含め、居住地に転用可能な既に開発された面積の総計)
・狭い程貸出冊数が多く、広い程サービスに費用がかかるため課題が多い。
<1人当貸出冊数と高齢化率> 負の関係(高齢化率:65歳以上人口割合)
・浦安市(千葉県)と安城市(愛知県)は、高齢化率が突出して低く貸出冊数は多い。
・上記2市を除いても、高年齢化が進むと、図書館の利用率は下がる傾向。
<高齢化率と可住地面積> 正の関係
・1人当貸出冊数との相関係数は、高齢化率よりも可住地面積の方が高い。
・高齢化率が高くても、図書館側の工夫で利用の向上につながる余地は大きい。
<貸出冊数と予約件数> 正の関係
・貸出が多ければ予約につながり、予約が増えれば貸出も多くなる。
・貸出は浦安市、予約は西東京市1番が多い。出雲市は貸出は多いが、予約が少ない。宇治市はいずれも下位。

A蔵書統計
<蔵書冊数と貸出冊数、開架図書冊数と貸出冊数> 正の関係
・出雲市は蔵書に見合った貸出。合併後も図書購入の予算枠は各館ごとにあるため、蔵書の偏り(郷土資料の収集等)に問題あり。
・宇治市は蔵書が少ない(人口1人当たり蔵書冊数が最下位)が貸出は健闘しているといえる。
<開架図書の蔵書に占める割合と貸出冊数> 正の関係と言えなくもない。
・開架図書の割合があまり高くても効果がない。(適切な書庫入れの重要性。)
・ひかわ図書館は公開書庫があるが、開架図書として統計にあげていない(閉架書庫も別にあり)。公開書庫については他にも実施している図書館もあるが、各館ごとに統計の項目の扱いが違っているのではないか。書庫を公開することの効果は別途調査が必要と考える。


B施設統計
<貸出冊数と図書館数> 正の関係
・図書館数はBM(自動車文庫)とサービスポイント(図書館以外で図書館の本を借りたり返却できる場所)を除く。
・12館ある小平市(東京都)が館数では一番多い。出雲市は施設数では上位。
<貸出冊数と延床面積> 正の関係
・ただし、面積が広いと利用も増えるとは一概には言えない部分もある。
・宇治市は施設面でも厳しい(1人当たり延床面積が最下位)が貸出は健闘しているといえる。
・宇治市は中学校が10校、図書館は3館。校区を考えもう少し分館を増やせないか?
<貸出冊数と中央館延床面積の全体に占める割合> 負の関係
<貸出冊数と一館当たり延べ床面積> 負の関係
・広いほど低い。大規模な中央館だけでは不十分である。なお1館のみの安城市が突出して貸出冊数が多いのは、10あるサービスポイントを分館と位置づけているからか。


●出雲市 延べ床面積比率・個人貸出数比率
・貸出は出雲中央とひかわで6割を超える。
・7館相互に貸出返却できるようになったことで、利用が伸びたところと逆に縮小されたところがある。
・学校数は中学校16校、小学校42校。中学校数からすれば、図書館数はもっとあってもよいとも考えられる。 

C職員
<貸出冊数と専任職員1人当たり人口> 負の関係
・司書の受持ち人口が突出して多い釧路市を除くと、職員が多いほど貸出が多くなる。
<貸出冊数と司書1人当たり人口> 負の関係
・司書数においても同じことが言える。
<貸出冊数と専任司書数> 正の関係
・出雲市は窓口をはじめ図書館業務全般を嘱託化した結果、少人数の専任職員という統計となっている。
・今回は専任職員(司書)に限った分析を行った。委託・指定管理等が進む中でどのような分析を行うと適当か考える必要がある。

D図書館経費
<図書館費と貸出冊数> 正の関係
・図書館費が多いほど利用も多い傾向。 
<貸出1冊当たり図書館費と貸出冊数> 負の関係
・図書館費の多少に関わらず、貸出が多いほど1冊当たりの図書館費は安くなる傾向にある。
<資料費と貸出冊数> 正の関係
・資料費が多いと貸出冊数も多くなる。資料費が突出して多い浦安市を除いても同様。
<1館当たり図書費と貸出冊数> 
・突出している安城市を除くと、図書費と貸出冊数の関係性は無くなる。
<財政力指数と資料費> 正の関係
・突出している浦安市を除いても同じ傾向。
・資料費増を要求するのに使えるデータではないか。
・財政力が低いところもあるという見方をされると不利か。
・出雲市は財政力指数は低いが、資料費はそこそこある。宇治市は、資料費でも下から2番め。財政力指数は高いが資料費は少ない市としては、小田原市・鈴鹿市など。



質疑応答(意見交換)
・合併前後の出雲地域の図書館間の利用について。
合併前も斐川町立図書館では近隣自治体住民に貸出をしていたが、他の館での返却はできなかった。合併後は貸出返却とも7館相互でできるようになった。

・出雲市の市長 
岩國 哲人1989年〜
西尾 理弘1994年〜(元文部省高等教育局主任視学官)※社会教育部門を市長部局化した。
長岡 秀人2009年〜(元旧平田市長)

・貸し出しが少ないのは
弘前市(青森県)、都城市(宮崎県)、小田原市(神奈川県)。前述の通り小田原は資料費も少ない。弘前・都城は資料費の割には貸出がかなり少ないといえる。

・島根県内に原発があるが、予算面での影響はあるのか? 
箱モノに消えることが多く、直接図書館に還元されることがないと感じていた。

・電子図書の普及で、図書館は縮小されていくという懸念はあるか。
個人的には紙の本は無くならないと思う。棚を見て選ぶブラウジングも大切である。
古い本を圧縮する意味での電子化はありかもりれない。
人口3万人の自治体で、サーバの管理も含め電子書籍を扱うのは負担である。都道府県でやってほしいと考えていた。
電子化は児童書に向くのではないか。
作家(特に絵本作家)としては、電子化され改変されることに抵抗があるかもしれない。

・著作権50年か70年かで問題が出てくるとしたら。  
著作権より出版権にあるのではないか。

・宇治市 
6館設置の計画が3館になってしまった経緯がある。厳しい予算の中で図書館は努力していた。

・出雲市では市長部局、京都府では教育委員会に移って変わったことは。
普段の書類の作成等は同じ。例えば、問題が起きた場合の対応部局が違う。 
市長の意見が強いかどうかに左右される部分がある。京都はその点、教育委員会と知事部局が厳格に分かれていると感じる。

<追記>
今回、司書資格取得中の方の参加も多数あり、意見を得ることができた。






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