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学習会記録(第208回)


日時:平成25年9月19日(木)
参加者:10名
内容:「デジタルアーカイブの利用あれこれ」
発表者:水野 翔彦 (国立国会図書館関西館)

0.自己紹介
担当業務の中で見聞きしてきたデジタルアーカイブについての発表。仲介者、発信者、利用者としての立場から。
・仲介者…国立国会図書館 データベース・ナビゲーション・サービス(Dnavi)や国立国会図書館デジタルアーカイブポータル(PORTA)※現在は国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)に統合
・発信者…近代デジタルライブラリーでは著作権処理も担当
・利用者…小展示、イベントなどでデジタルデータを活用


1.はじめに
◆デジタルアーカイブとは
「博物館・美術館・公文書館や図書館の収蔵品や蔵書をはじめ、有形・無形の文化財資源等をデジタル化して保存・蓄積・修復・公開し、ネットワーク等を通じて利用を可能とする施設、もしくはシステムの総称。」
【参考】IT戦略本部「重点計画2007」
・1990年代頃から使われ始めた言葉。

◆デジタルアーカイブの特徴とメリット
(1)情報資源をデジタル化すると、技術的には加工も複製も容易である。→データを編集する、という使い方。
(2)ネットワーク上での利用は、機械的な処理が可能で、いつでもどこでもだれでも使える。
→データをつなげる、という使い方。
(3)編集されたデータをネットワーク上でデータを共有する、という使い方。


2.編集する

◆編集するとは 
・ダウンロードした個別のデータを編集・加工し様々な用途に活用すること。

【例1】歴史講座「福井藩と坂本龍馬」(福井県立図書館)
・公開講座の案内のため、NDLの肖像写真を利用。
・自館の所蔵資料に同じ写真があるとしても、冊子掲載図版をデジタル環境で利用するには時間と手間がかかる。
・すでに公開されているデジタル化資料があれば、転載手続を踏んで利用するほうがスムーズである。

【例2】コンセプト 四谷の歴史(大和ハウス工業株式会社)
・住宅会社の広告として古写真、古地図等を利用
・分譲マンションの立地の歴史的価値を語るのに過去の写真、地図を併用している。

【例3】八百善ペーパークラフト(八百善)
・江戸期に制作された、老舗料亭の立体模型。
・NDLのデジタル化資料から提供された画像を公式ウェブサイトで公開している。

【例4】Stroly Chizuburari App Movie こちずぶらり (ATR Creative)
・古地図をスマートフォンなどのアプリに活用
・本来は巨大で貴重な古地図も、デジタル情報にすることで手軽に持ち歩くことができる。
・GPS情報やネットワーク上の観光情報など、様々な情報を結び付け提供することが可能。

【例5】完全復元伊能図全国巡回フロア展:60周年記念事業(日本土地家屋調査士会連合会)
・デジタル化した地図を実物大にパネル化。
・日本列島の地図をつなぎ合わせ、体育館などに広げ展示する。
・来場者は資料の上に立ち眺めることができる。
・地図とデジタル化は相性が良いのではないか。

【例6】角力チョコレート(Yasu-Bell Diary)
・土産物の意匠にデジタル化資料を利用。
・錦絵の図版をパッケージだけでなく、形を浮き彫りにしたチョコレートに加工している。

◆特徴とメリット
・利用者は少ないコストでデジタルデータを使える。
・発信者は、少ないリスク、コストで情報を提供できる。

【例7】「徳川3代将軍から、大名・庶民まで、花開く江戸の園芸文化―その保全と継承」 (きのこブログになりつつある園芸ブログ。)
・その分野を語るうえで抜きにはできない基礎的な資料の存在。
・だが、そうした資料(特に古いオリジナル)はどこでも所蔵しているわけではない。
・植物公園の企画展の案内に、江戸期の植物の説明として古典籍のデジタルデータを掲載。

【例8】歴史博物館へのお問合わせ(福井市立郷土歴史博物館)
・特定の地域を語る上では外せない人物の関連情報をあらかじめ用意しパッケージで発信。
・自館所蔵の画像データの二次利用の方法について案内するとともに、NDLの「近代日本人の肖像」も紹介している。

【例9】関西館小展示での活用
・展示会には展示の顔となる、手ごろなビジュアル素材が必須。
・毎回の展示において、ビジュアル素材としてデジタルデータを活用している。
・他機関の展示においてもポスターに活用されている。
・展示資料のうち、ガラスケース内に現物を展示するものについては手に取ってみることができない。
・デジタルサイネージを活用し、デジタル化されたものについてはタッチパネルで中身の一部を立ち読みできるようにした。

【例10】第13回小展示「花ひらく少女歌劇の世界」(国立国会図書館関西館)
・展示空間の拡張
・展示会のページでは、展示資料リストからOPACやデジタル化資料にリンクをはり、自宅からでも資料を利用できるよう案内している。

【例11】スポーツ&芸術の秋の旅 大阪・神戸 ('05.11.12〜13) (ぱいかじアベニュー)
・兵庫県立美術館での試み「絵(E)メール」
・美術展会場で、来館者に一部の展示作品の画像データを個人メールに送るサービスを行っている。
・来場者にお土産感覚で画像を持ち帰ってもらうことで、展示会場を来館者の携帯やパソコンにまで拡大。

【例12】古典籍総合データベースグッズ(早稲田大学図書館)
・大学図書館のデータベースのグッズとして
・所蔵資料の画像データをダウンロードして、ブックカバーや絵ハガキに加工出来るように提供。
・成果を拡散させるための飛び道具としてデジタルデータを活用

【例13】特別展「明治時代に礼法はいかにして伝えられたか―出版メディアを中心に―」(筑波大学附属図書館)
・企画展の成果の波及・持続のための仕組み。
・せっかく展示で興味を持ってもらっても、会期が終わったらアクセスできなくなるんじゃ意味がない。
・展示の成果を電子展示会として残す。デジタル化資料で中身を見られるようにする。
・資料を他機関借り受けて展示していたものも、近デジのようにデジタルで見られるものがあればリンクをつけてアクセスを担保する。

◆文化施設での利用・活用
・データ転載は、MLA機関の他、企業、個人など幅広く使われている。
・様々な文脈で活用されうる基礎的な情報は、文化・学術活動を支える情報源として活用される。
・活動の成果を波及・持続させるための手段としてのデジタルデータ。


【例14】古写真を利用した電子展示会
近代日本人の肖像(国立国会図書館)
写真の中の明治・大正(国立国会図書館)
・セレクトショップのように様々な資料をまとめて紹介、提供。
・NDLの「近代日本人の肖像」「写真の中の明治・大正」等は電子展示会の括りで、発信側が選定したものを紹介している。

【例15】NHKクリエイティブ・ライブラリー(NHK)
・NHKの試み。NHKが映像や音声を、「創作用素材」として、インターネットを通じて提供するサービス。
・選定したものの発信からもう一歩進め、個人の創作に利用してもらっている。
・作品の他、学校での活用事例も紹介して、さらなる利用につなげている。

【例16】中国語教材データベース(chLang project )
・所蔵資料でなくても、広く公開されているものからデータを収集。

◆利用を広げるために何ができるか
・利用者が情報を発見する手間を減らすため、公開しているデジタル情報をある程度パッケージする必要もあるのでは。
・戦前の写真は著作権フリーのものが多く公開しやすい。
・デジタル化された資料の内、「近代日本人の肖像」「写真の中の明治・大正」で紹介している肖像や古写真の量は1%以下だが、転載依頼は全体の4割近い。


3.つなげる
◆つなげるとは
・ネットワーク上で利用すること、させること。→知っていること≒利用できること→つなげて新たな価値を付与する。
・ネットワークでつながっていればアクセスするだけ=存在を知っていれば外部の情報を利用できる。

【例17】レファ協事例「明治時代の高松の午砲について」(香川県立図書館)
・レファレンス協同データベース事例
・事例だけでなく、出典もセットで共有することを考え、関連情報として近代デジタルライブラリーの情報も掲載している。

【例18】京都大学KULINE(京都大学図書館機構)
・自館の蔵書検索システムなどに他機関のデジタルアーカイブのメタデータを入れ込む。
・近代デジタルライブラリー等にリンクをはり、求める資料にたどりつける選択肢として案内している。

【例19】近代デジタルライブラリーに、香川県に関する資料が追加されました!(香川県立図書館)
・自館の守備範囲に関連する、近代デジタルライブラリー追加資料を紹介。
・自館の所蔵資料が増えたわけではないが、情報を共有することで利用の促進に役立てている。


◆API(Application Programming Interface)とは
・APIとはコンピュータが情報をやりとりするルール
・有用な情報がウェブ上に掲載するのは分かっていても、人力でそれらを把握し発信し続けるのは至難
・人手を割かなくても機会がWeb情報を自動で収集し、常に最新情報を保つことが可能。

【例20】新着雑誌記事速報(ゆうき図書館)
・外部のデータベースからAPIを使って時間所蔵雑誌の新刊情報を収集。
・収集した目次情報をウェブサイト組み入れ、自動で発信されるようにしている。

【例21】結城市関連論文ナビゲーター(ゆうき図書館)
・APIを使い、地域に関連するキーワードで論文情報を検索。画面上で全文が読める論文の一覧を表示。


◆使いやすさを共有する
「(抜粋)研究に有用な基礎作業は広く提供して多くの研究者で利用できるようにするべきである。…インターネットという環境は、情報提供を容易にする環境であり、研究の基礎となる様々な情報を提供するには適している。
」 (新たな研究基盤としての国立国会図書館デジタル化資料(法典調査会民法議事速記録等)
・既成のルート以外からの利用を作り出す=情報の新しい導線・価値を提示するということ
→発信者、仲介者、利用者みんなが幸せ。

【例22】法情報基盤−明治期の民法の立法沿革に関する研究資料の再構築−(佐野智也)
・個人のページだが研究者同士で共有できるようデータを収集している。

4.共有する

◆共有するとは
・既存のものを使うだけでなく、作るところからみんなで協力していく。
・青空文庫、レファ協、カレントアウェアネス…そもそもインターネットそのもの。
・協働の形態・手段は様々

【例23】
文化遺産オンライン(文化庁)
 全国の博物館・美術館等から提供された情報をもとに作成。
高輪地区歴史・文化資産のデジタルアーカイブ写真撮影しながら巡る 古寺が魅力!高輪地区のまち歩き」が開催されました(東京都港区)
 住民により収集された地域に関わる写真資料をデジタルデータ化し発信している。
レファレンス協同データベース(国立国会図書館)
 全国の公共図書館、大学図書館、専門図書館、学校図書館等と協同で構築している。
【例24】図書館の調べもの案内(岐阜県立図書館)
・データを提供される側だけでなく、する側にもメリット。クラウド的な使い方。
  ・レファ協に提供している自館の事例が確認できるよう、HP内に検索窓を設置。

【例25】国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)(国立国会図書館)
・2002年より実施。2010年度からは公的機関のインターネットの資料について、許諾を得ることなく収集できるようになった。
・アクセス数最多は「国会事故調」。このページは現在は終了しているがWARPに当時のページが残されている。

【例26】県立図書館による県のWeb情報の案内(埼玉県立図書館)
・調査、相談に役立つリンク集の中で、WARPの使用例等を紹介している。
・市町村合併で無くなった市町村のウェブサイト情報やその移行期の事情を調べることにも役立つとの報告。

【例27】“ndljp/pid”のサイト内検索結果(総務省
・ウェブアーカイブを前提としたサイト
・HPの記事に掲載期間を設け、過去分はWARPでの利用を案内している。

【例28】醫學中央雜誌. (1)(国立国会図書館デジタル化資料)
・保護期間満了ではなく、許諾によるインターネット情報の公開の例。

5.まとめ
図書館員として、今後考えた方がよいのではと思うこと
・仲介者としての視点から、発信者たる図書館員に考えてほしいこと
 あなたたちは誰のため、何のために情報を発信しているのか?
 あなたたちはなぜデジタルアーカイブを使うのか?
・利用者の視点から、仲介者たる図書館員に考えてほしいこと
 あなたたち図書館員が扱う情報の射程はどこまでか。
 あなたたちはどこまでの情報を利用者のために提供できるのか。
 個人としてはともかく、組織としてインターネット情報を提供するしくみがつくられているか。
・発信者として、利用者たる図書館員に考えてほしいこと
 あなたたちは図書館員として発信者(他機関・個人のデジタルアーカイブ運営者)に何をペイできるか。
 あなたたちはどうやってデジタルアーカイブの輪に参加するか。相互に得することがないと継続しない。



◆◆質疑応答(意見交換)◆◆
WARPについて
・以前はその都度ウェブサイトを丸ごと収集していたが、現在は差分収集を行っている。
・機械的に収集しているため、ウェブサイト内の全ての情報を完璧に収集できているわけではない。
・特定の環境に依存するものなど、情報の種類によっては収集できないものもある。
☆試しにいくつか検索してみる→
・収集は定期的に行っているので、逐一更新の度に保存されているわけではない。

二次利用について
・NDLはフォームでの受付なので、メールなど連絡先のみ記してあるような機関に比べて問合わせしやすいのでは。





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