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学習会記録(第207回)


日時:平成25年7月18日(木)
参加者:14名
内容:「国立国会図書館出向報告―カレントアウェアネス-Eの編集経験を中心に」
発表者:林豊(京都大学人環・総人図書館)
当日の発表の様子はtogetterでも見ることが出来ます。(http://togetter.com/li/535670)

1.はじめに

自己紹介
 ・京都大学附属図書館で目録やILLの担当をした後、国立国会図書館に2年間出向し、現在は京都大学人環・総人図書館(京都大学人間・環境学研究科総合人間学部図書館)に勤務

現在の職場
 ・整理部門とサービス部門があり、サービス部門に所属
 ・図書館ではTwitter(@jinkansoujinlib)を運営している
 ・毎日更新している入口の黒板が人気で、よく学生さんが写真を取ってツイートしている

2年前の学習会でお話したこと
 ・ブログ「カレントアウェアネス-R」の始まりと位置付けやワークフロー(特に情報収集の方法)について話した(第187回学習会)
 ・情報収集については、CA1788(http://current.ndl.go.jp/ca1788)と拙ブログ(http://cheb.hatenablog.com/entry/2012/06/22/000120)を参照

今日お話ししたいこと
 ・カレントアウェアネス-Eの裏側について
 ・2年間どんな想いで、どんな仕事をしてきたか
 ・この経験を今後どう生かしていくのか


2.“カレントアウェアネス”とは

カレントアウェアネスサービス
 ・「図書館その他の情報機関が、利用者に対して最新情報を定期的に提供するサービス」

カレントアウェアネス・ポータル(以後CAポータル)の位置づけ
 ・国立国会図書館のミッション「私たちの使命・目標2012-2016」のうち、「目標4:協力・連携」に位置づけられているサービス
 ・組織の中では関西館、図書館協力課、その中の調査情報係に勤務

調査情報係の仕事
 ・図書館情報学に関する調査研究、情報収集、その成果の提供
 ・成果を提供しているサイトが、CAポータル(http://current.ndl.go.jp/)である CAポータルのコンテンツ
 ・カレントアウェアネス-R(以後CA-R):毎日更新しているブログ形式のコンテンツ(2006年創刊)
 ・カレントアウェアネス-E(以後CA-E):隔週で発行しているメールマガジン形式のコンテンツ(2002年創刊)
 ・カレントアウェアネス:季刊(以後CA.当初は月刊)で発行している冊子体のコンテンツ(1979年創刊)
 ・年刊の調査研究シリーズ

記事の分量
 ・CA-Rは500文字程度
 ・CA-Eは2000文字程度。メールで配信するほかに、ポータルにも掲載している
 ・CAは3000〜10000文字程度。紙媒体の他にポータルでも公開
 ・調査研究は数百ページ程度の報告書。紙媒体の他にPDFとしてポータルにも掲載

CAポータルの利用者調査の結果
 ・2012年にWebを通して調査
 ・利用者は大学図書館員がいちばん多い
 ・意外と通勤中に見ている人は少なかった
 ・自由記述から:情報のインフラ、参考元が明記してあってよい。自分も頑張ろうと刺激を受けるetc

前史
 ・CA発行の変遷:総務部→参考書誌部→図書館研究所(1986年〜)→関西館図書館協力課へ

チーム
 ・課長(=編集長)
 調査情報係
  ・依田氏:係長、調査研究主担当、図書館情報学、米国留学経験、法律・行政・農
  ・菊池氏:CA主担当、スペイン、欧州、デジタル人文学、本、デジタル化、研究者
  ・発表者:京大からの出向者(4代目)、CA-E&CAポータル主担当、大学図書館、図書館システム、電子リソース、オープンアクセス、国内ネタ
 ・非常勤調査員:米谷優子先生(園田学園女子大学)※2013年度は佐藤翔先生(同志社大学)
 協力者
  ・CA-Eでは、いくつかの記事を年間契約した外部執筆者に書いてもらっている(その都度執筆を依頼することも多い)
  ・CAの編集企画員を研究者や実務者(図書館員)に委嘱している
  ・さらに読者やフォロワーの皆さんも大事な協力者である

CAポータルモデル
 ・CA-Rで書いたものの中からCA-Eを執筆し、それをCA、調査研究とつなげていく


3.メールマガジン「カレントアウェアネス-E」の舞台裏

CA-Eとは
 ・関西館開館に合わせて、2002年10月より刊行し、年22回発行
 ・各号5〜7本の記事を掲載。執筆者は調査情報係(メイン)+外部執筆者
 ・購読者数は約6千人。執筆者の意見ではなくてファクトを伝えるメディアというのが特徴
 ・昨年度掲載記事の内、はてなブックマーク数のランキング一位は福井県立図書館の覚え違いタイトル集だった

10年間における変化
 ・長文化:初期は500文字程度だったのが、最近は平均2000文字。背景にはCA-Rとの差別化がある
 ・トピックの軟化、広範化:一息つけるような読み物も 例:図書館以外の領域も(ウェブサービスなど)
 ・係外執筆者の増加:最近は4割近くが係外の外部の執筆者で占められている
 ・2012年度から完全署名記事になった

発行スケジュール
 ・前回の号が発行された次の日に企画会議があり、次の水曜までに執筆、さらにその次の水曜までに係+非常勤調査員+課長で校正して、木曜日に発行とスケジュール。本当にぎりぎりで息つく暇もないぐらいである

(質疑応答)
Q:この外部締め切りが月曜なのは固定なのか?
A:執筆者によってある程度前後する。館内の人に執筆をお願いする場合は水曜ぎりぎりの時もある。

発行の流れ
(1)企画
 ・企画会議ではここ一か月のCA-Rの記事を見ながらCA-Eにする記事を決めていく
 ・CA-Rの執筆の時点でこれはCA-Eにするからという動機で簡単にしか書かないこともある
 ・外部原稿は早めに依頼しておく
 ・難しいのは面白い記事であっても自分が書けるか?ということ。ファクトを伝えるのでエビデンスの確保が重要
 ・全体のバランスを考えてゆるいネタも入れたり
 ・ネタを選ぶ眼というのはマニュアル化できないところなのかもしれない
(2)執筆
 ・文章の形式はすでにある程度決まっている。(文体、記述の根拠となるURLをハイパーリンクなしで列挙するなど)
 ・気を付けること:読みやすさと正確さのバランス、メッセージの明確化
 ・1本の記事の完成にかかる時間は10〜20時間程度?
 ・館外執筆者には依頼状と著作権譲渡書類を作成し,捺印・提出してもらっている
(3)校正
 ・徹底的な原文との対照。一文の根拠について徹底的に確認する
 ・原文の魅力を損なわないように気を付けて校正する
 ・徹底的に校正する理由:国立国会図書館として記事を出す以上,きちんとしたものにする必要がある
(4)発行準備
 ・配信前日にテスト送信して係内で最終チェック。ここでも若干のリライトを行う
 ・チェック終了後、メールマガジン配信のタイマーセットをし、CAポータルに非公開で仮掲載
(5)発行
 ・12時の配信確認直後、CAポータルでも記事を公開&Twitterで広報
 ・そのあとは後片付けしたり、著者にお礼メールしたりしている


4.2年間の経験を超えて

自分がやってきたこと
 ・CA-Rの記事:2399本、CA-Eでは255本編集(うち66本執筆)
 ・カレントアウェアネス:CA1775とCA1788を執筆
 ・CA-Eで改善した事:メルマガ版・ポータル版のタイミングを同時化、署名記事化、外部執筆者の募集開始(これはほとんど菊池さんのお仕事)

記憶に残っている記事
 ・武雄市図書館についてのまとめ記事(http://current.ndl.go.jp/node/20784)
 ・神奈川県立図書館についてのまとめ記事(http://current.ndl.go.jp/node/22274)
 ・2012年著作権法改正についての記事(http://current.ndl.go.jp/node/21166).違法DLの刑罰化の話題ばかりだったこともあり、あえてバランスを取って図書館送信をメインに据えた記事にしたが、Twitterでは批判的なコメントが見られた

反響
 ・記事を見て、SPARC Japanセミナーの講師にスカウトされた
 ・発行2時間で日本書籍出版協会「出版流通白書」から転載依頼があった記事も

思い出の記事
 ・埜納タオさんインタビュー(http://current.ndl.go.jp/e1252)
 ・情報発信活動インタビュー:情報管理Web、実業史研究情報センター、笠間書院、nalib.net、リブヨ・ブログ(E1308他)

CA1788「カレントアウェアネスポータルのいまを“刻む”」(http://current.ndl.go.jp/ca1788)に込めた想い
 ・情報発信によってなにか良い変化が起こって欲しい
 ・アーカイブとしての役割も強く意識している
 ・人的リソースは限界があるので、外部の人にも情報発信してほしい

情報発信とは
 ・どう変化させ影響させたいと私たちは願うのか。(江上敏哲「本棚の中のニッポン」)
 ・情報発信(情報環境のデザイン)=ライブラリアンの仕事

だから離れても、外から応援する
 ・カレントの問題はカレントだけの問題じゃない
 ・自分もこれからも情報収集と情報発信を今後も続けていく
 ・例えばCA-Eの感想をブログに書いたり

出向で得たもの
 ・影響力のあるサービスに関われたこと
 ・ナショナル/グローバルなスケールで日々仕事をしたこと
 ・大学図書館以外の館種についても広く関心を持つようになったこと
 ・海外情報をウォッチするときの勘所が分かったこと
 ・東日本大震災のこと
 ・きちんとしたものを書くことの大切さ
 ・手加減なしで高いものを要求できるチームで働く楽しさ
 ・ハイレベルなひとたちの仕事を近くで見られたこと
 ・国立国会図書館の内在的論理を垣間見たこと

自分はこれからどうしていきたいのか
 ・出向元へのフィードバックよりは日本全体のことを考えて仕事していた
 ・いつも願っていること:自分の強みを生かしたい。いま、この“チーム”でしかできないことをしたい。“ファン”のできるサービスをしたい


●質疑応答

Q:出向してすぐになにか練習というか慣れる期間があったのか?
A:いや、着任初日からCA-Rを書いた。ただし最初の2か月は公開前に係長のチェックがあった。

Q:CA-Eのチェックについては?
A:チェックは5人で。係員+非常勤調査員+課長。

Q:いまは外部から応援しているとあるが、林さんが見つけた情報を使ってCA-Rを書いてもよいのか?
A:全然かまわない。

Q:(質問者視点で)ネタを先に使われたとき、避けようと思うことあるが気にしなくて良いか?
A:気にしなくて良い。以前、CA-Rははてブ・ツイッターで誰かが流したネタを記事にしているだけではないかと指摘されたことがあるが、単にネタを見つけるのとそれを国立国会図書館の名で出せる記事にすることの間にはかなりのギャップがある。

Q:出向で得たものとして前後で一番変わったことは?
A:希望は通らないという諦め?w

Q:仕事のやり方の変化は?
A:特に感じないが、情報発信についての抵抗感はなくなった。この2年で学んだことはきちんと書くことの大切さ。

Q:各媒体の差を意識して書いたことは?
A:CA-EやCAはメールマガジン/紙とウェブと複数の媒体で出している。コンテンツがメールマガジン/紙という媒体の持つ制約に引きずられていると感じることはある。ウェブに載せるときに少しコンテンツを変えてもいいのではないか。

Q:CAポータルに出した後で、記事を修正したことは? 
A:ある。致命的な訂正の場合は「訂正あり」と記述して再度ツイートしたこともある。参考URLのリンク切れはどうしても起こり、特に新聞記事はどうしようもないので諦めている。

Q:CAポータルの今後について、作業量がすごい負担になっているようだが。
A:確かにこれ以上は作業量は増やせないと感じている。そのためにも館内外の協力者を活用したい。

Q:CAに書かせてほしいという話をもらうことは?
A:あまりないが、こちらから依頼すると快諾してくれることが多かった。






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