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学習会記録(第203回)


日時:平成25年3月21日(木)
参加者:11名
内容:「国立国会図書館のILLサービス」
発表者:服部 智(国立国会図書館関西館)

自己紹介
・2011年に採用。複写・貸出業務・利用者登録業務の係に配属され、遠隔複写、図書館間貸出を担当。

「NDL(国立国会図書館)のILLサービス」の定義
・ILL(Inter-Library Loan)は語義としては資料貸借のみを示すが、今回は複写を含む文献提供サービスとして用いる。
・ILLサービスは一般的には双方向のサービスだが、NDLの場合はリクエストに答えるのみ。公共図書館、大学図書館等のサービスを支援するためのサービスとの位置付け。

NDLのILLサービスの歴史
・1953年、複写サービス開始、海外の諸機関・個人に対して複写サービス開始。
・1960年、IFLA(国際図書館連盟)に参加し、国際貸出開始。
・1963年、ゼロックスの電子式複写開始。飛躍的に利用が増える。69年には複写業務の一部外部委託開始。
・1986年、新館開館を前に複写課を新設し、図書館からのFAXによる申し込み開始。郵送複写の地域制限(東京23区内からは申込不可)の廃止。
・1998年、NACSISーILLと連携したNDL-ILLシステム本格運用。2002年に関西館開館に伴い、遠隔利用サービスの窓口を関西館に移転。
・2002年、NDL-OPACの公開と、これを経由した遠隔サービスの申込み受付開始。国際子ども図書館の学校図書館セット貸出を開始。内容は国際理解をテーマにしたもの。
・2006年、図書館間貸出資料について借りた館で(事前申請が必要だが)複写が可能になった。
・2007年、NDL-ILLシステムの運用終了。NDL-OPACへの一元化をおこなった。
・NDL-ILLの効果。利用が増え、大学図書館からも申し込みがしやすかった。
・2011年、電子ジャーナルの遠隔複写サービスを開始。

サービスの概要
・NDL-OPACからの申し込みは各所蔵館ごとに申込書が出力される。
・紙による申し込みの場合は代わりにシステムに調査・入力。入力〜発送は外部委託。申込者への確認や問い合わせは職員が行っている。
・貸出サービスも同じ流れ。資料が貸出可能かどうかや問い合わせは職員が行い、他は外部委託。貸出制限資料群(逐次刊行物、特殊形態の図書等)は基本的にはシステムから申込できないようになっている。
・図書館間貸出については「4月1日からは、貸出資料を確認したら受領通知を送ってください。」とお知らせしている。
・国際複写、貸出もメニューは国内と同じだが、連絡方法、支払方法に違いがあり。
・FAX・郵送分は受理簿に記録し、代行入力。入力できればシステムで管理。入力できない場合は職員が調査する。他の係に所蔵確認を依頼することも。特定できないものは謝絶をする。
・2011年の海外からの遠隔複写件数1643件(うち謝絶278件)。2012年は遠隔複写件数1515件(謝絶222件、そのうち90件は所蔵無し)。
・謝絶理由は所蔵なしが多いが、最近はデジタル化作業中、およびデジタル化済のために貸出できない場合もある。
・2010年より、NDLの書誌データをOCLCに提供→書誌情報にOCLC番号を書いた依頼が多くなっている。
・件数が増えていない理由。NDL-OPACからの申し込みは日本語版のみ。英語画面からは不可で、日本語がわかる司書がいなければシステムからではなく、FAX等での申し込みしか出来ないため。
・また支払方法の問題もあり、クレジットは可能だが、IFLAバウチャーの要望が多い。
・海外からILLセクションにくるメールでの複写依頼は、NDLに未所蔵の場合もしばしば。その場合はレファレンスフォームに誘導している。→レスポンスは早いが、窓口にたどり着くまでに利用者が要する時間は長いと思う。

サービスの現状と課題
・2012年からNDL-OPACに電子ジャーナルの書誌を投入。
・EJ(電子ジャーナル)のプリントアウトの提供はベンダーとの契約で国内在住の個人からの申し込みのみ。そのため、機関からの申し込みに対する謝絶が増加。
・申し込みの際にEJであるとわかりにくい。今後もベンダーとの契約によっては利用できなくなることもある。
・EJで洋雑誌の欠号分などをカバーする場合、機関経由では申し込みを受けられない(=公費が使えない)など、ハードルが高い。また、現状OPACの書誌情報の更新頻度が低く、OPACでは利用可となっていても謝絶のケースもある。
・デジタル化資料のプリントアウトについて、NDLのデジタル化は「デジタル画像化」のため、申込に対する複写箇所の特定に冊子体の時よりも時間がかかり、コスト増という矛盾がある。
・メタデータ整備も十分ではないため、簡単に検索できず、すぐに見つかるとは言い難い状況。これは保存に重点を置いているためで、プリントアウトしての利用を第一前提としていないから(目的の不一致)。
・ILLは目的ではなく手段、ということを感じている。
・e-DDSについて:学内の図書館にある雑誌の文献複写の申し込みから閲覧までをWebで行うサービス。特に大学図書館を中心にサービスが提供されている。

質疑応答
Q:2007年にNACSISとの連携をやめたが、大学からの依頼が減ったのが理由なのか?
A:件数はやや減少しただけだったが、システムの更新に合わせて、一元化ということで連携をやめた。NACSISで依頼してもシステム間ではなく、代行入力だったという実情もあるようだ。
Q:遠隔複写にて、紙の場合は代行入力しているが、紙でしか受け付けていないものがあると聞いたが?
A:憲政資料など、OPACに書誌の詳細が載っていないものは紙にての対応になっている。
Q:デジタル化資料のプリントアウトについて、時間がかかるのはキーワード検索ができないためか?
A:そうである。図書についてはインデキシングが甘いものもあるので、一枚一枚見ていくしかないこともある。
Q:e-DDSについて、学内だけならば直接に行った方が早いのでは?
参加者からの意見:学内が広かったり、離れているところはメリットがあるのでそのようなサービスがあるのではないか。
Q:NACSISのILLについて、相殺制度がいいと思っているが、今後再びNDLが参加することはあるのか?
A:NDL-OPACの新システムは既存のシステムをカスタマイズしている。NACSISは独自システムなので、連携するのはハードルが高いと思う。
Q:OPACと紙での申し込みの比率は?
A:圧倒的にOPACの方が多い。機関からの紙の申し込みはシステムでの入力ができないものがほとんど。
Q:海外からのメールでの申込案件で、未所蔵の物が多いのはなぜだと思うか?
A:推測だが、OCLCは見てもNDL-OPACを見ていないのだろう。なくても何とかしてくれると思っているのではないか?
参加者より:所蔵の有無はわからないが、ありそうだし送ってみよう、他機関に渡りが付けばラッキーというところも多いと思う。
発表者:確かにそういうものは感じる。
Q:2011年と2012年との遠隔複写件数の国別内訳は?
A:詳しい資料はないが、感覚的には北米・ヨーロッパ、中国、台湾が多い印象。北米の中ではアメリカが多い。
Q:「デジタル化作業中の資料の要望が多く謝絶が増えた」ということを聞いて、デジタル化するような資料に対する要望が多いという印象はあるか?
A:大量にはないが、割と継続的にあるのでそう感じる。常連の依頼館(海外図書館)はやはり日本研究が盛んであると感じている。
Q:提供へのスピードアップ、支払方法、謝絶の方法について、なにか考えは?
A:スピードアップについては、スタッフを増員すれば早くなると思う。また、レファレンスと連動し、所蔵確認をしてから複写へと流すようにすればいいと思う。支払い方法については、暫く現状のまま。謝絶の減少に関わって、人数が同じであれば謝絶の見切りを早くするというのもスピードアップの一つの方法。ただし満足度は高まらないのでどうかと思う。なかなか難しい。
Q:電子ジャーナルの提供について、ベンダーとの契約で個人のみとなっていると言っていたが、どこのベンダーでも同じなのか?
A:機関対応のベンダーもあるので、収集部門からも要望は出ている。また、奉仕対象が日本国民と広範囲なのでベンダーとの交渉は苦労していると聞いている。
参加者より:電子ジャーナルは大学では大体プリントアウトすれば他館への提供はOKというところも多いので国会のやり方は大変だなと思う。






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