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学習会記録(第196回)


日時:平成24年7月19日(木)
出席者:14名
内容:「海外からの利用を考える。-『本棚の中のニッポン』から-」
発表者: 江上敏哲(国際日本文化研究センター)

1.この本は何か?
・日文研(国際日本文化研究センター)とは 
 大学共同利用機関/国立大学の仲間と考えてもらえばよい。
 日本文化に関する国際的・学術的・学際的研究を行う。
 世界の日本研究者に対する研究協力・支援のための機関。
 海外の研究者が研究員として滞在しながら研究ができる機関。
・「本棚の中のニッポン」について
 日文研で資料を提供する仕事をしていて気がついた点をまとめたもの。
 (内容)
  海外での日本研究の現状・課題・ニーズを取材してきた内容。
 (対象)
  海外の日本研究(研究者・学生)
  海外の日本図書館とその周辺(蔵書・サービス・活動)
 日本からはどういうサポート・情報発信をしているか。
 図書館としては、この問題は“アウトリーチ”の一つ。
 本書では図書館関係者以外にも広く読んでもらいたかったので敢えて「アウトリーチ」という言葉は使わなかった。
 国を越えるとユーザーには時間・コスト・ストレスがかかる。
 日本側の対応として、鎖国ではなくホスピタリティーを持って接してほしい。
 日文研だけでは対応に限界がある。
 広くたくさんのサポートが必要なので自治体、学校関係者、大学図書館、公共図書館からが幅広く支援してほしい。
 このサポートへの理解のために執筆した。
 この海外へのアウトリーチサービスの改善は日本の一般ユーザーへのサービス向上にもつながる。
 この話は日本自身が得をするか損をするかという問題である。
 (損)
  海外で日本研究が盛り上がらない。
 (得)
  海外で日本研究が盛り上がる。
  海外で日本に興味を持って論文・雑誌を書いてもらうことは日本の広告になる。

2.「海外の日本図書館」をとりまく世界
・言葉の定義
 「日本図書館」=日本資料を所蔵・提供する図書館
 「日本資料」=日本語で書かれた資料+日本について書かれた外国語資料
・「海外の日本図書館とその周辺」(本書P13図0-2により詳説)

 【図】
  (海外)
  本を出版・ネットへのアップ
  ↑
  (海外)日本研究者・学生・一般ユーザー
  ↑
  (海外)日本図書館
    ・東アジア図書のような括りになることが多い。
    ・担当者は1人、場合によっては、Korea,China担当と併任。
    ・そのため仕事は目録などほぼ全てをこなさなければならない。
   #日本資料を扱う他の図書館の担当者とコミュニティー形成し、様々なサービスを提供し、日本からも情報収集している。
    ・日本への依頼
     日本について理解をして依頼する図書館員。
     日本について理解はしていないが、職務上依頼する図書館員。
  ↓
  (国境) 越える・越えなければならない。
   (橋) 人を介して情報が移動するための橋。 
      日本側が橋を広くしてスムーズに渡れるように努めなければならない。
  ↓
  (日本)出版社・研究者・大学図書館・公共図書館・官公庁

 日本と海外を結ぶ橋がスムーズに渡れない事例を紹介して、
 スムーズではないという認識(世界観)で執筆した。

3.海外からの利用・リクエストは本当に来るのか?
 「海外からの利用・リクエストは必ず来ます。」が著者の持論。
 海外の日本図書館・ユーザーのニーズ・課題が日本側に知られていない。

【ケース@】地方史研究・フィールドワーク
・あらゆる地方のあらゆる機関・資料へリクエストが来る。
 伝統的な人文系の日本研究は多くの大学で行われている。
 地方の図書館・文書館・公民館等に資料の提供依頼が来る可能性はある。
・文献調査+フィールドワーク
 公共図書館・資料館・教育委員会・市役所への調査。
 官公庁刊の資料は、HPで存在などを見つけることが出来ても、入手方法がわからない。
 入手のための料金決済も融通がきかないことが多い。

【ケースA】日本と世界の間に立つ存在
・お雇い外国人 
 帰国時に大量の日本資料を母国に持ち帰り大学図書館に寄贈。
 その大学図書館の研究者が詳細研究のために来日する。
・日系移民…現地で日本資料を出版。これを研究する人がいる。
・植民地研究…最近増加傾向。責任追及のためではなく、当時の社会制度を研究する人が増えている。

【ケースB】“旅行研究”
・王氏へのインタビュー(本書P217)
 戦前の中国台湾朝鮮への修学旅行の研究。高校の修学旅行の歴史を調査。
 伝統校の校史史料・学友会の雑誌を見るために自力交渉が必要であった。
 (学校側の反応)
  歓迎…まさか自分達の史料を海外の研究者が必要としているとは思わなかった。
      自分達が見向きもしなかった史料を研究してもらえる。
  困惑…史料が整理できていない。過度に慎重な対応もある。
 日本留学中でなかったら無理だった。
 橋の悪さの象徴的事例。

【ケースC】学際化・グローバル化
・日本語の資料を求める人に日本リテラシー(日本に対する熟知度)があるとは限らない。
 今まで国内の各機関は高度な日本リテラシーを持った日本を専門に研究している人を相手にしていた。
 (日本リテラシーの階層(ピラミッド)
   /\高…日本研究者・専門家=質的内容の高さで日本をアピールしてくれる。
  /    \中…学部生・初学者 日本語が初級、日本語を学ばない
/      \低…日本が専門ではない人 別の分野の研究者、一般人(ビジネス・趣味・社会文化活動)
          圧倒的多数。量的な面で日本をアピールしてくれる。

 今は総合的・横断的な研究が増加したため、一つのトピックを国別に研究し、その中の一つとして日本がある。
 例えば、貿易、仏教、芸術、フェミニズム、ジェンダー、移民などのトピック。
 日本語がしゃべれないが古典籍を分析する研究者もいる。
 これらの研究者には日本語がわからない人も多い。或いは日本を熟知しているとは限らない。
 この人たちがスムーズに使える橋が必要。

・ワークショップ
 (課題)
  自分の図書館・職場にあるどんな資料がどんな(海外の)ユーザーから利用されるだろうか。
  それを使う(or使ってもらう)にはどうしたらよいか。

(a/公共図書館)
 漢籍和刻本が中国及び周辺諸国で出版されたものと比較するために利用される。
 戦前の朝鮮半島や中国東北部の鳥瞰図が植民地時代等の様子を研究するために利用される。
 複写料の決済システムや送金コストの軽減が必要。
 資料の事前調査を容易にするために全目録のデータ化や資料のデジタル化が必要。
(b/公共図書館)
 京都新聞のスクラップを現在の情報を知りたい人に。
 他のサイトへ情報リンクしてはどうか。
(c/公共図書館)
 庭園の研究書を日本庭園研究者へ提供したい。
(d/大学図書館)
 イタリアの占星術研究者からの依頼。
 実例として、修士論文複写のリクエストがあった。
 修士論文は貸出・複写不可としているため資料提供には至らなかった。
(e/公共図書館)
 観光情報の発信。
 英語HPの充実。その他の言語にも広げたい。
 ふらっと来る外国人来館者、美術館と間違えた外国人来館者をとり込む。
(f/公共図書館)
 外国からの利用がすでに多く、『本棚の中のニッポン』にあるリテラシーの低い利用者が多い。
 課題としては著作権の問題。
 デジタル化された図書も館内限定で閲覧となるものが多い。
(g/公共図書館)
 美術館図録多数所蔵しているので、海外の美術史・芸術研究者からのリクエストに対応する。
 海外のサイトにリンクする。
 (コメント)
  海外の目録などに載せるのは良い方法。
(h/公共図書館)
 大阪名所はがきは、近代大阪への研究に対応できる。
 (コメント)
  海外ユーザー…ビジュアル資料を探すのに熱心。
  国内ユーザー…テキスト資料を収集することが中心。
  絵葉書は日本語だけでなく、ローマ字化や市の地図や年代で検索できるとなおよい。
  掲載利用の簡略化は必要。
(i/公共図書館)
 京都関係のライトな資料を、日本リテラシーの低い人に提供する。
 他館にない古い雑誌は近代研究に使える。
 対策として外国語対応の書誌が必要、国際交流センターや日文研とも連携したい。
 (コメント)
  目録の英語表記はホスピタリティーな対応のために必要。
(k/大学図書館)
 日本語と英語資料が50%ずつ所蔵しているため、外国人利用者が多い。
 日本語資料に焦点をあてるとお雇い外国人の展示コーナーがあり、子孫が来館したこともある。
 戦災にあっていないということもあって医学史を研究しにくる人もいる。
 明治初期の医学生のノートも公開中。これも外国人にわかるようにすればアクセスは増えるかもしれない。
(m/公共図書館)
 最終的には全ての資料にリクエストが来る。
 利用しやすさの方策はOPACだが使い方がわかりにくいので、検索のためのナビを充実させたい。
 具体的には、図書の内容紹介、英語でのOPAC取扱説明、検索の容易さ、わかりやすいブックリストなど。
(p/公共図書館)
 京都府が出している統計書を姉妹都市の中高生がリクエストしてくる。
 著作権の問題がないのならFAXで送れないか。
 実際にオランダから普通のエアメールで1500円が届いたこともある。
 せめて姉妹都市間では簡便な決済システムがほしい。
(q/公共図書館)
 精華町の歴史に関する資料へのリクエスト。
 近接する国会図書館関西館で見つけた本を借りるための利用。
 対策として、OPACの英語対応は必要。
 使用方法の英語版は作ったが、画面の中が英語対応していない。
 Web上の情報を海外からどうやって発見してもらうかも課題。⇒府、国などでまとめて海外からのアクセス容易にできないか。
 (コメント)
  データベースはgoogleで検索されやすいところに置くのがコツ。

4.これだけ覚えて帰ってください
・海外からのリクエストはどこにでも届きます。
・国を越えるだけでも、ユーザーには無駄な時間・コスト・ストレスがかかります。
・日本語の資料・情報を求める人が日本語が堪能とは限りません。
・みなさんはすでに“日本専門家”です。
・これは“日本”自身が損/得をする問題です。
・海外の日本研究のことを知ってください。

質疑応答
Q1:この本の賞味期限は
A1:過去10年ほどの間に自分が体験したことを素材として、それに対する考え方をメインに執筆した。
  考え方を参考にする場合、賞味期限は人それぞれ異なる。
  次々に同じテーマを扱った研究書が出てくれば良いと考える。
Q2:クールジャパン(例:TVゲーム)を日本ではどう扱うべきか?
A2:国会図書館が収集すべきだと思う。
  海外の図書館では収集対象であり、(図書館主催で)ゲーム大会も行われている。







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