Home

学習会記録(第190回)


日時:2012年1月27日(木)
出席者:17名
内容:「レファレンスサービスの現在」
発表者:渡邉 斉志(国立国会図書館関西館電子図書館課課長補佐)

・今回は公立図書館(地方自治体が設置)のレファレンスサービスについての話をします。

1.レファレンスサービスの「起源」
・1876年の第1回全米図書館大会にてサミュエル・グリーンが提唱。
・利用者に対する人的援助として自覚的に位置づけられた。
・移民が多く(=識字率も低い)利用されにくいといった実情もある中で図書館の社会的意義を高めようとすることが主たる動機。
・日本では「貸出しに力が注がれた結果、レファレンスサービスの優先度が相対的に低くなった」とする見方もおそらく可能だが、近年はレファレンスサービスを重要だとみなす傾向が強くなっていると思われる。
・例:「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」や「これからの図書館像」。図書館職員の意識調査でも「司書が行うべき業務」として最上位に挙がってきている。

2.サービス件数の推移
・静岡県内の全公立図書館(←全国的にみて最も統計が整備されている)を対象に分析。
・H14〜21年の間に、貸出冊数の総計は大幅に増加、レファレンスの総計はやや減少。
・レファレンスサービスが活発でない図書館では、3分の2の館でレファレンス質問回答件数(の指数)が増加。反対に、活発な館の殆どでは減少。
・同じく統計が整備されている富山・新潟両県の全公立図書館及び全国の都道府県立図書館についても同様の傾向が見られた。
・つまり「レファレンスサービスが活発な図書館では(レファレンス質問は)減少傾向、逆に不活発な図書館では増加傾向」ということが言える。
・したがって、現段階では「レファレンスサービスが必要とされなくなってきている」とまでは言えない。
・次に、所蔵調査を「簡易な質問」と措定し、レファレンス質問の難易度がどのように変化しているのかを調べてみた。これは、「インターネットの普及で、簡単なことは利用者が自分で調べるようになったので、難しい質問が増えている」という通説の妥当性を検証するため。
・内容種別の統計が公表されている都道府県立図書館の全館(11館)について分析してみたところ、いくつかのパターンはあるが、「簡易な質問」の増減がレファレンス質問件数全体の増減をもっとも大きく左右していることが判明(つまり、レファレンス質問が減っている館では「簡易な質問」の減少が全体を押し下げる方向に作用。逆に増えている館では「簡易な質問」の増加が全体を押し上げる方向に作用)。
・つまり「インターネットの普及で、簡単なことは利用者が自分で調べるようになったので、難しい質問が増えている」という通説は(少なくとも「所蔵調査=簡易な質問」と見なす限りにおいては)妥当とは言い難いということ。

3.図書館に頼る必要性の低下
・図書館によるレファレンスサービスは認知度が低い。
 →「Yahoo知恵袋」等のライバルとの差は圧倒的
・「Yahoo知恵袋」等では確かに典拠が示されない回答が大半だが、中にはきちんとした出典を示して回答している例もある。
・これに対し、図書館のレファレンスサービスは蔵書(&アクセスできる情報源)の質・量が制約要因となるので、そうした縛りの無いネットでの質問回答サービスに劣っている面もあると言えるのでは?
・さらに、図書館員に趣味・嗜好をさらけ出すのはためらわれるという「心理的な障壁」が存在していることから、この点でもレファレンスサービスは匿名性の高いネットでのサービスに劣っていると言わざるを得ない。
・つまり、図書館よりもインターネットに軍配が上がる点は少なくない。

4.サービス展開の可能性
・もちろん、情報サービス(SDI、カレントアウェアネス、リテラシー教育)への展開はかなり以前から意識されており、レファレンスサービスを「質問回答」だけに限定して捉えるべきではない。
・しかし、書誌作成業務がアウトソーシングされたり、専門書誌が作成されなくなったこと等により(そのこと自体は合理性を追求するためだったとはいえ)、レファレンスサービスの水準を高めるような業務が図書館のルーチンワークの中から失われたため、レファレンスサービスを発展させることは構造的に難しくなっている。
・また、言うまでもないことだが情報探索をサポートすることは図書館の専売特許ではない。
・これらを踏まえれば、レファレンスサービスの展開を図るには体制の整備とマーケティングが必要。
・では、それは実際にできるだろうか?

5.問題提起
相対性
・少なくともサービスは情報探索「支援」の手段の一つ。利用者自らが自力で探索するのが基本。
・そのため不要論が出てくる余地は常にある
 →(例)H18.10月の石原東京都知事のインタビュー、H20.12月の大阪版市場化テストでの委員からの指摘
・仮にレファレンスが過剰サービスとみなされて投入されるリソースが縮小されれば、質問への回答も「手間のかからない範囲で」処理されてゆくようにならざるを得ない
 →地域の知的生産活動の基盤は弱体化
 →当然、図書館員もレファレンスサービス抜きで評価されるようになる(←ちなみに、今日の聞き手は図書館員の方が大半なのでこういう言い方をするが、自分としてはこの点を強調するのは本意ではない)

6.レファレンスサービスの意義の見直し
・マーケティングを上手に行えばレファレンスサービスが活発化する可能性はある。しかし、過剰サービスとの問いに対する回答にはならない。つまり意義の再定義が必要。
・発表者からの提言:「サービス」から「サービス+政策のコミット」へ
・地方自治体の行政機構は、そこに住む住民が直面する政策課題を解決するために存在している
 →公立図書館も設置者(=地方自治体)の政策課題の解決に寄与することが当然求められているはず
 →また、公立図書館は公的機関であり、利用するか否かにかかわらず全市民に対して責任を負っている
・図書館が持つ能力(今日の話に引き付ければ「レファレンスサービスを遂行する能力」)を活かして
 1.利用者に対して充実したサービスを提供すること 
 2.地域づくりのアクターとして機能すること
 1だけでなく、2もやっていくということ。
・レファレンスサービスを地方行政全体の政策の中に位置づける(子育て支援、高齢者支援、学校教育、経済政策、議員(=市民の代表)の活動のサポート、行政職員(=市民のために働く人)の活動のサポートetc.)
・これらは図書館だけではできないことばかり。「人と本」だけでなく、「人と人」を結びつけながら、図書館も歯車のひとつ(=脇役)として機能することが必要。
 →これは「図書館が主体性を失う」ということにはならない。むしろ縦割りの弊害からの脱却として積極的に評価できる。

「脇役としての図書館」
・図書館が主役を演じることができる領域に拘る必要はなく、脇役としてもその能力を活かせばよい。
・レファレンスサービスも、「図書館利用者に対するサービス」としてだけでなく、「脇役」としての役割の中でも生かされるような業務設計をすれば、図書館が持っている潜在能力は一段と地域づくりに活かされていくだろう。


質疑応答
Q:そもそも行政の職員等が図書館を知らない場合はどうすればいいのか。
A:図書館の機能・潜在的能力を知ってもらうためにできることはした方が良いし、実際にできることはたくさんあると思う。特に、同じ自治体の行政職員は同僚であり、方法は幾らでもある(もちろん、都道府県や大都市の場合、行政機構自体も巨大なので「越境」するのが難しいということはよくわかるが)。ただ、大事なのは、それは「図書館のアピールのため」ではないということ。既に存在するリソースを活用することは間違いなく地域住民のためになる、というのが出発点であり、それを忘れてはいけないと思う。

Q:国会図書館は個人からのレファレンスを受け付けているのか、また質問の傾向はあるのか。
A:申し訳ないが原則として個人からは受け付けていない。近隣の公共図書館等を通じて申し込んでいただきたいいうことで対応させていただいている。東京本館は主題毎に専門資料室が分かれているのでそれぞれに割り振られることになるが、全体としては様々な分野についての質問がくる。

Q:設置市町村の区域外からのレファレンス対応については過剰サービスとの指摘があるが、どう思うか。
A:それは政策的判断による(=法的には問題無い)。市民以外の方が図書館を利用することを、その自治体としてどのように位置づけるかによって決まってくることだと思う。

Q:地方の図書館は全国の補助金で成り立っているのだから、全国の人が使われるべきではという意見にはどう思うか?
A:そのような考え方もわかるが、それがひとりよがりの説明になってしまう可能性も全くないわけではない。いずれにしても主権者と十分に対話をすることが必要だと思う。

Q:自治体の政策を支援するとは具体的にどういうことか?
A:例えば学校に対する支援もそうだと思う。学校教育は自治体にとって重要な課題。学校図書館に対して団体貸出を行っている公立図書館は多いが、図書館が持っているリソースを使って学校教育をサポートするにはどんな方法があるだろうか?と真剣に考えている自治体の中には、団体貸出にとどまらない取組みを展開しているところもある。他にも、生涯学習講座の運営に図書館が関与すれば、レファレンスサービスの能力(パスファインダーを作成する能力)を活かして貢献できる部分はたくさんあるし、蔵書の規模が大きな図書館であれば、地域が直面する課題を解決するためのプロジェクトに図書館も(文献収集や調査を担うことを期待されて)声がかかるようになるところまでは持っていける可能性があると思う。

【参考文献】
渡邉斉志「公立図書館におけるレファレンスサービスの意義の再検討」『Library and Information Science』No.66(2011)
http://lis.mslis.jp/article/LIS066153




Copyright © 京都・図書館情報学学習会. All Rights Reserved.

inserted by FC2 system