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学習会記録(第181回)


日時:2011年2月17日(木)
出席者:16名
内容:「DAISYのこれから」
発表者:水野翔彦(国立国会図書館関西館)

1.導入
 1)自己紹介
  国立子会図書館(電子図書館課)に勤務。
  昨年4月までは障害者サービス担当であった。現在は個人的に勉強を続けている。
  大学時代はメキシコの先住民族言語・文化を研究。
  現在、南京町の龍獅団で活動中(春節祭の様子を紹介)。
  DAISY(デイジー)に関する、音楽CDとの違い、電子書籍との関係、EPUBとの違い、教科書への導入などDAISYを取り巻く最近の事情について今回の発表で紹介したい。 

 2)キーワード:「One Source, Multi Use」

2.DAISYの話
 1)DAISYって何?
  DAISY(Digital Accessible Information System=アクセシブルな情報図書システム)
  国際組織のDAISY Consortiumが管理している。2011年2月現在の最新バージョンは3.0 DAISY 3 Structure Guidelinesによると大きく分けて、音声と目次のみ、テキストのみ、音声とフルテキスト(マルチメディアDAISY)の3種類がある。今回はマルチメディアDAISYを中心に話をする。

 2)デモ
  <再生ソフトAMIS(アミ)を使って、マルチメディアデイジーのデモを行った。>
  使用したDAISY図書は“Are You Ready?” (DAISY 3 Full Text Full Audio)
  http://www.daisy.org/samples#t11でダウンロード可能

 3)DAISYの沿革
  1986年IFLA東京大会で視覚障害者のためのデジタル録音図書の標準化が国際的に議論された。
  1995年IFLAトロントでの会議で2年以内の標準化と国際組織発足が決定され、
  1996年にDAISYコンソーシアムが設立(日本、スウェーデン、イギリス、スイス、オランダ、スペインの6ヶ国で結成)アメリカは別規格を考えておりこのときは不参加(1997年に参加)
  2001年にバージョン2.02がリリース、2003年にDAISY3.0、2009年にはDAISY4改訂予定。現在最も普及しているのは、2.02

  ■DAISYのはじまり(ENJOY DAISY)
   http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/about/beginning.html
  ■History(DAISY Consortium)
   http://www.daisy.org/history

 4)DAISYの中身(DAISY3.0を例に)
  DAISYデータは多くのファイルで構成されているが、基本は7種類のファイル。
  「.opf」「.mp3」「.xml」「.ncx」「.smil」「.css」「.jpg」 
  .opf パッケージファイル。全体の構造や順番を把握し各ファイルを読み込む。
  .mp3 音声ファイル
  .xml テキスト情報のマークアップ言語
  .ncx 目次情報
  .smil 画像、テキスト、音声などを統合して再生させるためのマークアップ言語
  .css スタイルシート。レイアウトを指示。
  .jpg 画像ファイル
  これらのうち、.opf .ncx以外はW3C(World Wide Web Consortium)で標準化されている規格

 5)EPUBとDAISY
  EPUB2.0とDAISY3.0の構成を図で比較してみると、大変よく似ている。
  →EPUBを管理するIDPF(国際電子出版フォーラム)とDAISYを管理するDAISY Consortiumの両組織でメンバーが重なっている。
  →EPUBはDAISYの技術(DTBookやNCX)も利用している。
  EPUBも2.0から3へ、DAISYは3.0から4へ改訂中。
  EPUB3がDAISYの配布フォーマットを担う予定。

 6)DAISYの戦略
  a.利用者の意見を反映
    大規模な実証実験、オープンな開発
  b.標準化戦略
    すでにある技術を用いて公開性、互換性向上、開発とメンテナンスコスト削減
  c.普及戦略
    途上国も視野に入れた普及戦略(DAISY for ALL )
  d.デザイン戦略
    出版自体をアクセシブルに
  e.幅広いDAISYの開発・応用
    数式の読み上げをMathML(数式をXMLで書くためのマークアップ言語)で実現
    利用者の再生機に直接配信できる配信プロトコル”DAISY online Delivery Protocol”
     (→カレントアウェアネスCA1717「DAISYの新しい展開:DAISYオンライン配信プロトコル 」に記載したので参考にしてほしい)

3.DAISYの周りの話
1)製作の拡大著作権法改正(2009)
   製作者の拡大、利用者の拡大、複製の方式が録音以外も可能に。
2)利用者の拡大

3)ディスレクシア
   知的障害や後天的な要因(教育や社会環境)以外の理由で、文字に関して、見るところから脳が認識する間のどこかの段階で何らかの障害がある。いろいろなパターンがある。
   DAISYが有効なのではないかと言われている。

4)教科書バリアフリー法
   点字教科書と拡大教科書が「教科用特定図書」として定義された。
   原稿用デジタルデータを提供するよう教科書出版社に対し義務づけた。
   義務教育における国費での無償提供化
   課題として、高校が教科書の無償提供の範囲に入らない、ボランティア頼み、縦書きへの対応などがある。

5)国際的な動き
   障害者の権利条約:日本は2007年に署名。批准に向けた準備中。
   WIPO(世界知的所有権機関)等、著作権の国際条約作成への動き

4.まとめ
1)One Source, Multi Useと図書館
   各レイヤーで"One Source, Multi Use"を実現している
   コンテンツ(DAISY)+インフラ(TIGAR、GPII)=ユニバーサルデザイン
   "One Source, Multi Use"は図書館こそ十八番なのではないか。
   サピエ(視覚障害者情報総合ネットワークhttps://www.sapie.or.jp/)は最先端の電子図書館のモデルと考えられるのでは。
   著作権の制限規定の中で起こっていることは、フェアユースを考えるうえで、参考になるのでは。

2)なのに、みんなに知られてないよね。
   
3)障害者サービスは特殊な、+αなサービス?
   特権ではなくて合理的な配慮。

4)何ができるかなぁ
   個人として、図書館職員として
   祖父のこと。後悔したくないという気持ち。


Q&A、フリートーク

Q.京都ライトハウスで音訳ボランティアを行っている。最近ようやくテープへの音声吹き込みからパソコンに直接吹き込むようになった。しかし、テープも利用者がいなくなるまでは続ける方針である。手間と時間を考えると出版社がデータを提供してくれたら一番良いと思う。デジタルデータのDAISY化はどのくらい存在しているか。
A.まだまだ紙を見て吹き込むのが主流であると思う。今回の話はあくまで最先端ないし近い未来の話。デジタルデータの配布については、文部科学省のウェブサイト(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/kakudai/1246126.htm)に、マルチメディアDAISY教科書のデータ配布については目録や申請書などが日本障害者リハビリテーション協会のサイト(http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/book/daisytext.html)に掲載されているので参考にしていただきたい。


Q.DAISYとEPUBについて人的資源を共有しているとのことだが、その活動の資金等について知りたい。
A.申し訳ないが、IDPFやDAISY Consortiumの財政面については、会員団体から会費を徴収しているというくらいしか把握しきれていない。
その代わりといってはなんだが日本について知っていることをいくつか。日本ではリハビリテーション協会などが「日本DAISYコンソーシアム」を結成し、DAISY Consortiumの正会員となっている。おそらくDAISY Consortiumの会費なども折半しているのではないだろうか。それぞれの団体も種類も様々なので一概には言えないが、事業を持っていたり、政府や自治体からの委託を受けたり、寄付であったり、そういうことで資金を得ているのではないかと思う。また、サピエ図書館の稼働もそうだが、補正予算がある時に状況が進むという現状がある。


Q.最近、オリンパスのICレコーダーがDAISYに対応していると聞いた。そのようなデバイスはどの程度進んでいるのか。
A.オリンパスからVoice-Trek(ボイストレック)というDAISY図書の再生もできるICレコーダーが発売された。DAISYコンソーシアムでもブースが出ていたた。シナノケンシ株式会社は初期段階からDAISY再生機PLEXTALK(プレクストーク)を製作し、世界中で販売している。
ニンテンドーDSのような端末でDAISYを再生することができるClassMate (クラスメイト)や、iPhoneやiPadでDAISYを再生するためのソフトVoice of DAISYなどもある。Voice-Trekのように一般のデバイスで読むことができるのは重要であり、広まると良いと思う。
【参考】
■Voice-Trek (OLYMPUS) http://olympus-imaging.jp/product/audio/dm4/index.html
■ClassMate (TIMES Corporation) http://www.times.ne.jp/products/classmate/index.html
■Voice of DAISY(CYPAC) http://www.cypac.co.jp/vodi/jp/
■PLEXTALK Pocket PTP1(プレクスター) http://www.plextalk.com/jp/products/ptp1/index.html


Q.DAISYの翻訳機能はあるのか。例えば英語のテキストを日本語で読み上げるなど。
A.現在は無い。実用に耐えうるかどうかははなはだ疑問だが、現行の両方の技術を組み合わせれればできないこともないと思う。


Q.教科書バリアフリーについて、ボランティアに依存しているというが、ボランティアは組織化されているのか。公立小学校や特別支援学校との連携はどうか。
A.著作権法の改正で製作者が拡大されたが、公共図書館等と異なりボランティアは明示的には入っていない。「文化庁長官が指定するもの」という枠があるが、指定を受けるのは一般のボランティアグループにはハードルが高い。そこで、例えば教科書DAISYでは、文化庁長官指定事業者である日本障害者リハビリテーション協会がボランティアグループを総括していて、そこに所属しているボランティアが作成している。この協会には全国で13団体ぐらいのボランティアグループがある。(http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/book/daisytext.html)学校の現場の先生方は、正直手が回らないのが現状ではないか。子供の学習支援に関しては子どもの親などが会を作って活動していることが多い気がする。兵庫県ではLD親の会「たつの子」(http://www.sanynet.ne.jp/~tatunoko/)などが有名。


Q.DAISYの課題、現在DAISYでできないことは何か。
A.今は技術が進みすぎて制度や仕組み、関係者が追い付けていないことのほうが問題なように思う。公共図書館、点字図書館などでも視覚障害者「等」にたいしての対応をめぐって揺れていると聞いている。先ほども述べたが、DAISY3.0が最新バージョンであるけれども2.02が主流である。ボランティアに依存している現状では新しい技術に対応するには厳しい。
(発表後追記)
まだ仕様書を完全に読み込んでいないが、以前講演会で聞いた「インタラクティブな仕組み」がまだまだ発展するのではと思う。その場ではディスレクシアの生徒がテストを受ける際などに役立てるといったことが言われていた。


Q.国会図書館の近代デジタルライブラリーがTTS(text-to-speech)を意識していると聞いている。具体的にはどのようなことか。
A.近代デジタルライブラリーでは現在、JPEGで閲覧、PDF形式でダウンロードをすることができるが、テキスト情報が含まれておらず読み上げができないという指摘がなされている。現在内部では大規模デジタル化に伴い、テキスト化の実証実験を行っている段階である。各フォーマット(DAISYの3.0 XMLも含む)を使ってテストを行っている。テキスト化の課題としては近代デジタルライブラリーの資料は旧字体が多数含まれており、OCRが難しいことがよく言われる。OCRについては現在このような状態だが、電子出版の納本制度が始まると変わってくるのではと思う。





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