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学習会記録(第180回)

日時:2011年1月27日(木)
出席者:25名
内容:「奈良教育大学図書館での3年間はの仕事 図書館員は「ゼネラリスト」か?」
発表者:赤澤久弥(奈良教育大学学術情報研究センター図書館)

発表は、パワーポイントを使い、レジュメ内容をスクリーンに投影しながら進んだ。

■自己紹介:異動経験から
□1995.3 大学卒業。茨木市立図書館でアルバイト
□1995.10 京都大学総合人間学科部図書館 整理掛 *国立大学職員は、おおよそ3年ごとに異動がある。
     洋書目録を2年半、受入業務を半年担当、職員野球を通じ他職種との交流
□1998.10 京都大学付属図書館 システム管理掛
     図書館システム管理業務担当。トラブル対応等の非典型な仕事。この掛にいたことで京大図書館全体を見渡すことができた
□2001.4 京都大学工学部電気系図書室
     閲覧と雑誌業務を担当。職員二人、非常勤一人の職場。後半は桂キャンパス移転に伴い一人職場を経験することに。小さい職場ならではの教員との密なつながり
□2005.4 滋賀医科大学附属図書館 情報サービス係
     閲覧とILL業務担当、医学系図書館には独自な世界がある。他大学を知ることで、外から京大を見ることが出来た。
□2007.4 京都大学医学図書館 閲覧担当
     閲覧と利用者教育業務(図書館のガイダンスとして、授業の中で、PubMedの紹介などを行った)。
□2008.4 奈良教育大学図書館情報サービス担当(現職)に異動。

■奈良教育大学(http://www.nara-edu.ac.jp/)の紹介
□創立120年を超える歴史
 奈良師範学校、奈良県女子師範学校、奈良青年師範学校等を起源。戦後、奈良学芸大学を経て、奈良教育大学へ。
 1956年の朝日新聞の載った大学紹介の記事によると、「大学には太陽族も共産党員もいない、のんびりとした校風」と。
□教育組織
 学 部:学校教員養成課程と総合教育課程(教職免許が卒業要件となっていないゼロ免課程)
 大学院:教育学研究科(修士課程のみ)、教職大学院(専門職大学院)
□構成人員
 国立大学の中ではかなり小規模で、学生1000人程度、職員合わせて170名程度

■奈良教育大学図書館の紹介
□学術情報研究センター
 組織:図書館、情報館、教育資料館(昔の教科書など展示)から構成。
 学術情報課:図書、情報、研究協力(科研費関係を主に担当)、総務の各担当に分かれている。
□図書館部門の人員構成
 目録情報担当:係長1、非常勤1
 情報サービス担当:係長1(発表者)、係員1、非常勤1、非常勤1(リポジトリ業務(スキャニング、メタデータ作成)担当)
 係長二人は京都大学からの出向。

■図書館全体図(http://www.nara-edu.ac.jp/LIB/libmap2.jpg)
 正面玄関から見て左側が最初の建物で、右側が新棟。建物の床面積に対して利用者スペースが少ない。

■教育系大学図書館の世界
□教員養成との密接な関わり:教科書(古いモノや、教育実習で使用される現行のモノ)が収集されている。
□所蔵範囲:総合大学と同様、おおよそ全ての学問分野を扱うが、予算、人員ともに小規模がゆえに収集のジレンマがある。
□図書館間のつながり:国立教育大学図書館協議会(全国の11の教育系の国立大学図書館で構成する協議会)、近畿地区四教育大学国立附属図書館協議会(奈良、京都、大阪、兵庫)

■奈良教育大学図書館での仕事について
□その図書館についての現状を「知る」
□他でできることなら自館でもできるはずなので「真似る」
□やらないと進まないので「決断する」
□上司、同僚、他のセクションと「協働する」
□以上のことを「実現する」

■きれいな図書館に
□職員は何年も勤務するが、学生は四年しかいない。その間、図書館が汚かったら利用してもらえない。
□赴任時の状況:未整理の書類、山積みの寄贈資料、収容力を超えた書架、使われていない什器など。
□寄贈資料受け入れ基準、廃棄基準の案を作成し、廃棄・整理した。カードボックスを捨てて空いたスペースに学習支援環境整備の観点から、レポートを製本するための道具を設置。
□随時的な建物のメンテナス
 漏水対策:水道管が破裂して水が湧いたため、緊急修理。
 書庫内資料のカビ対策:設計当時からの書庫から直接外部に開口する外気取り入れ口があり、湿気の管理がうまく出来ていなかった。これを塞ぎ、エタノール水溶液で除菌することでカビは激減した。
Q:カビが生えたというが湿度はどのくらいからどのくらいへ?
A:アナログ湿計しかなくデータ的な管理はできていない。今まで動いていなかった排風器を作動させると、湿度は安定した。

■使いやすい図書館に:お金のかかったこと
□閲覧室のレイアウト変更:書架を新規購入し、利用の多い教育系図書(NDC370)を別置
□電動書架、入退館ゲートの更新:老朽化対応のため、学内経費を要求した。電動書架は基盤が劣化し壊れており、すべての入れ替えには数千万単位の費用がかかるので、動作不能になっいていたブロックの取替えのみ。
□個人席(キャレル)の導入
 *学生からの要望を背景に、学内経費を要求。自学自習の環境整備(無線LANも利用可能とするためキャレル席の電源設置工事も)を企図。

■使いやすい図書館に:お金のかからなかったこと
□サインの改善:マジックの手書きだった分類表示を機械とパウチを使った綺麗なものに変更に。
□飲食ポリシー検討の一環としてドリンクコーナーの設置
 個人的には蓋付きの容器であれば飲み物を持ち込んでもよいのでは検討したが、当面の対応として設置。
□作業コーナーの設置
□グループ学習室利用時間延長:学生からの要望を受けて検討、実施。模擬授業などへの活用を想定してプロジェクタの貸し出しも開始した。

■親しみやすい図書館に
□学生による企画展示「ボーダーレス展」:カウンターバイト学生が企画。何をやるか、報告は受けるが、内容は学生に一任。
□面展台の活用:他施設等のチラシ置き場から、自館の図書テーマ展示の場所へ。
□目録担当の係長が主になって、ブックハンティング(学生に予算を与えて本を選び、購入させる)の実施:田舎だとそもそも買いに行く本屋がないので、ブックハンティングは都会でしかできないかも。

■遡及と除却
□製本雑誌遡及:法人化に伴い資産のDB化が必要となので実施。カウンターバイト学生に作業してもらい、2万冊の遡及を完遂。
□図書遡及:赴任時で残り10%で止まっていた。NII(国立情報学研究所)大規模遡及事業に2年応募したが採択されなかった。現在は学内経費を要求し推進中。
□除却:除却:適切な資産管理と狭隘化対策のため、滞っていた除却作業を遡及入力と併せて、目録担当係長といっしょに推進。

■電子的資料利用環境の整備
□赴任時に図書館システムのリプレイス時期だった。業務系は極力カスタマイズしないことにし、ユーザーインターフェイスを重視し、OPAC書影表示、学内統合認証等の実現。
□何を導入するか決定されないままだった新聞記事データベースは、聞蔵Uを導入。またNetLibraryも導入した。(NetLibraryは利用数と費用から考えるとコストパフォーマンスは良くないが、学生向けコンテンツを整備し、利用拡大の呼び水にしている。)
□「永井家文書」の電子化計画:高槻藩永井家伝来の老中奉書等。出陳利用も多く、科研費による電子化を目指すが採択されず。
 *このとき軸装がばらばらなので出所の疑問が生じたが、書庫より来歴が書かれた資料を発見。これによると昭和6年に奈良女子師範学校時代の校長が、崩し字を読むための教材として購入したとのこと。 

■奈良教育大学学術リポジトリの整備(発表者の担当事務)
□大学刊行物公開のプラットフォーム化を企画
 *リポジトリは大学の出版物を電子化して世間で見られるようにするもの。小さいところほど必要。また、リポジトリはプラットフォームであるべきで、刊行時の納本と公開許可を教員と所掌課に要請 
□紀要類の遡及電子化の推進(50年分あり、発表日にちょうど完了した):許諾はWeb周知による一括公開許諾方式を採用。
□多様なコンテンツの電子化:紀要類の他、大学史、奈良教育大学の前身が戦前に刊行した図書、修士論文等 
 *修士論文はの電子化には指導教授の許可が必要。アクセスは多い。併せて、過去の大学刊行物は製本の上、保存。

■リテラシー教育の拡充
□リーフレット:蔵書検索案内編など作成。
□「論文・レポートを書くための図書館活用講座」:従来は新入生対象ガイダンス(利用案内や検索実習)が主で、開始三年目。文献収集方法や論文フォーマットの概要(引用の仕方)など。
□定期講習会:開始一年目。蔵書検索と論文検索。参加者は少ない。それでも続けることが大事。

■連携する図書館(いずれも職員同士のつながりがきっかけ)
□奈良県立図書館情報館との相互利用協定:県立の連絡便で双方の図書を取り寄せ可能になった。
□大阪教育大学附属図書館との連携企画:市民向け公開講座を相互に企画し共同開催
 *先方の課長が知人だったことがひとつのきっかけ。また奈良教育大学側企画の講師は、目録担当係長の知人に依頼した。
□NWEC(ヌエック)の図書コーナー:国立女性教育会館のパッケージ貸出を利用。先方が新規事業として開始したもので、NWECの課長からのお誘いで。
□四教育大学附属図書館実務担当者MLとオフ会:大教大がMLを運用。日々の疑問など気軽に聞ける情報交換の場が欲しいという要望から、年に二回実際に会って気軽に話す場(オフ会)を設けている。

■チームとして働く
□日報をつける:申し送りやマニュアル化前の事項を日々記述。定着は難しく、強制は出来ないがこういうシステムは必要。
□ミーティングをする:図書担当5人で週1回試行しているが、現在休止中。
□図書担当全員でのカウンター当番を開始:カウンター知の共有と誰もが対応できる体制のため、目録の2人も追加。
□マニュアル化を図る:短期の人でも同じように業務遂行できるように。組織の記憶は文書化しないとやがて消える。 

■新しい図書館を作る
□学内経費での一部改修案から、概算要求(国のお金)での改修へと話が動き出す。
□増改築構想「知の広場としての図書館へ」というコンセプトブックを作成
□最終的に、耐震改修工事として補正予算がついた。4月に仮移転、現在改修後のレイアウト計画案(動線の向上、ガラス張りのグループ学習室、展望の良い場所へのキャレル設置など)を策定中

■前述した「5つの言葉」と奈良教育大学図書館の仕事から考える
□課題を見つける
 老朽化、狭隘化の問題はどこの組織にもある問題、利用者の声を汲んだり、他館でできていることを実行することはできるはず。ただしその問題は解決できることなのか、必要性はあるのかという客観的判断が必要。
□実現のチャンスは突然やってくる
 人事異動による状況の変化、パートナーの出現など。課題をみつけたらストックしておくことも必要。
 予算はもらう方法はいろいろある。とりに行く姿勢が大事。出来ないことは出来ないと受け止め、成果をあせらない。
□同僚や上司と一緒にやる
 組織である以上、一人でやれることは少ない。しかし、協働は力になる。改善はチームで形にすることで、改善結果を組織として継承できるようになる。

■図書館員の人材のあり方を考える
□異動をどう捉えるか
 異動のメリット:経験、人脈、マネジメントスキル等の獲得(異動しなくてもできなくはない)。デメリット:個人および組織のナレッジの分断。
 異動しないことのメリット:仕事を深められる(必ずしも専門性が高められるとは限らない)。デメリット:個人と組織の停滞
□図書館員のあり方とは?
 今、図書館で必要な能力は何か。専門への造詣、資料保存、システムなど専門性の必要性は確かにある。
 そもそも何が「スペシャリスト」か、「ゼネラリスト」かという定義付けが難しい。
 スペシャリスト、ゼネラリスト(=コーディネーター)、バーサタイリスト(色々出来る多機能)といった人材像があるが、「ゼネラリストのスペシャリスト」が本当は必要なのではないか。

質疑応答
Q1:未整理で溜まっていた資料とはどんなものか?
A1:図書館の業務上の文書や図書委員会の書類など。20年前のILL帳票も出てきた。

Q2:ちょうど職員の入れ替わり時期だったが引継ぎはどの程度あったか?
A2:図書館としての文書、ナレッジという意味ではなかった。前任者が同じ京大からの出向だったというのもある。

Q3:リポジトリに修士論文を載せているが、紀要等と比べて利用数が多いというのは、どの程度有意なことなのか?
A3:アクセス元、属性はわからないが、アクセス数TOP100に入るということをもって利用が多いと考えている。

Q4:参照されている修士論文のタイトルは?
A4:今はわからない。後で調べることは可能。

Q5:レポート製本コーナーのカッター、鋏などの道具を設置したことによる問題は?
A5:ヒモを付け盗難防止策は講じていたが、ヒモを外されたことがある。

Q6:入退館ゲートは壊れる前に更新できたのか。
A6:WindowsNTという10年前のOSが使われていたが、なんとか無事更新できた。

Q7:ゲートの認証形式は?
A7:学生証がまだバーコードなので、読み取り窓にかざすタイプ。

Q8:貸出データとは別に、入退館者のデータは把握できているのか?
A8:利用者IDが分かるので、何科や学年など把握できる。図書館システムから利用者データをネット経由で毎朝自動更新される。更新前は出来なかった。

Q9:みんながゼネラリストになる必要性はあるのか?
A9:専門性は大事だが、それだけだと図書館が回らなくなる。全ての人に必要ないがマネージャータイプの人物は必要だろう。

Q10:マネージャー的要素が必要というのは人員削減から生まれた考えか?
A10:そうではない。職種として今まで声を大にして言わなかった繋がる力をよくしていくなど、判断力が必要。

Q11:図書館員としての理想像、また、発表者はどの位置にいるのか、足りないものは?
A12:自己分析すると調子が良く日和るところがある。ここにいる一生懸命な方と比べると追求する姿勢はまだまだだと思う。

Q13:No.12のスライド(紀要の山、カビ、水道管破裂、使用されない什器)のような悲惨な状態から良くなるまでや、他のことも含め話はうまくいっていたのか?
A13:衝突はあまり無かった。ミーティングに関しては、負担に感じるといった意見もあった。

Q14:ジョブローテーションでどうやって様々な図書館員の形ができるのか?
A15:今までジョブローテーションがよい意味でのゼネラリストを作る良い機会だったと考えるが、国立大学の法人化後、人事交流ルートが縮小しており、人材育成の土壌は狭まってきている。

Q16:ジョブローテーションの先として図書館外もあり?
A16:当然あり。図書館好きである点は考慮しなければ、無理に畑違いのところへ送り込んでもパフォーマンスが低下する。規模の問題になるが奈良教育大は専門性だけに特化してはポストがない。京大などの大きな組織ではそれも可能かと思います





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