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学習会記録(第178回)


日時:2010年11月18日(木)
出席者:16名
内容:「大学アーカイブズの可能性」
発表者:清水善仁(京都大学大学文書館)

1、はじめに
(1)自己紹介
   ・大学院生の時の「史料管理学研修会」受講をきっかけにアーカイブズに興味を持ち、アーカイブズ学の世界へ足を踏み入れる。
   ・2006年4月より京都大学大学文書館(以下、京大文書館)で助手・助教として勤務(任期5年)。
     教育職ではあるが、アーキビストとしての意識で仕事をしている。

(2)課題設定
   ・本日は大学アーカイブズの歴史、現状と課題、可能性について京大文書館の活動を中心に話をする。

(3)言葉の定義等
   ・アーカイブズの定義としては、丑木幸男「アーカイブズの科学とは」(『アーカイブズの科学』上)がわかりやすい。
    「人間が活動する過程で作成した膨大な記録のうち、現用価値を失った後も将来にわたって保存する歴史的文化的価値がある記録史料をアーカイブズという。
     また、それを行政・経営・学術・文化の参考資料、諸権利の裏づけのために、保存する文書館等の保存利用施設もアーカイブズといい、
     記録史料を収集、整理、保存、公開する文書館の機能もアーカイブズという。」
   ・アーカイブズには「組織アーカイブズ」と「収集アーカイブズ」の2つの側面がある。
    組織アーカイブズは親組織によって作成ないし受理された記録を収集・整理・保存・公開する場(機能)。
    収集アーカイブズは個人・団体等から資料を収集して整理・保存・公開する場(機能)

2.大学アーカイブズの歴史
(1)大学史編纂の時代(1960~70年代)
   ・国立大学の五十年史、私立大学の百年史等の大学史編纂がはじまる。大学の沿革史編纂を契機として資料保存組織が発足し、大学関係資料の収集と保存が開始した。

(2)大学アーカイブズへの模索(1980~90年代)
   ・国立大学の百年史編纂を契機に大学文書館設置への動きが起こる。
   ・東京大学の動きが最も顕著。1981年『東京大学関係諸資料の保存と利用に関する予備的研究』
   ・寺﨑昌男が「大学アーカイヴズとはなにか」(1983年)で大学アーカイブズが収集対象とする資料の類型を提示した。
   ・中川寿之が「「公文書館法」の制定と大学史資料の保存問題」(1989年)で大学関係資料の収集・整理の体制づくりの必要性を指摘
   ・全国大学史資料協議会の発足や澤木武美他「大学史編纂と資料の保存」(1992年)の発表。
   ・親組織の組織運営文書に対する意識の向上、年史編纂だけの組織から脱却、横の繋がりの構築への方向性。

(3)大学アーカイブズの新展開(2000年代)
   ・2001年施行の情報公開法が国立大学の行政文書にも適用されたことを契機に、国立大学でのアーカイブズ設立の動きがはじまる。
   ・2000年11月に京都大学大学文書館が学内組織(部局)として設立された。
    文書管理規程のなかで、大学文書館への非現用文書の移管を義務づけた。これが日本で最初の本格的な大学アーカイブズと言われる所以。
   ・その後、国立大学のアーカイブズ設立が続いたが、それでも一部に留まっている。
    私立大学は情報公開法が適用されないので、同法が直接のアーカイブズ設立の要因にならなかった。
    また、国立私立問わず、予算規模や人員減などアーカイブズをめぐる慢性的な課題により、近年では「箱」から「機能(公文書館的機能)」へという議論が進んでいる。
   ・「公文書等の管理に関する法律」が2009年に公布され、国立大学法人が適用対象となるので、法律に準拠したシステム構築の必要性に迫られている。同法の規定やガイドラインのハードルが高く、現在の指定申請はごくわずかの模様。

3.京大文書館の活動概要
(1)所蔵資料の種類
   ・所蔵資料約16万点。非現用法人文書、学内刊行物、個人資料、学外刊行物、図書、写真の6種類に分けられる。
(2)主な活動
   ・非現用法人文書は文書館に移管後、約半年かけて照合し選別、保存する。
    評価選別作業は専任教員3名で担当している。移管文書の6、7割が廃棄されるが、廃棄対象文書は廃棄前に部局に照会をかけ、希望があれば保存する。
   ・2008年9月に所蔵資料検索システムが運用開始。システム構築を担当した。非現用法人文書、個人資料、刊行物、写真の横断検索が可能。また階層検索とキーワード検索ができる。また資料を閲覧室にて公開もしている。
   ・研究・教育活動として、大学史などの研究、新採用職員研修への講義、展示等を行っている。
   ・京大の事務職員による、業務遂行に必要な資料の閲覧対応を重要視している。それは、こうした活動を通して、文書館の認知度・存在意義の拡がりや、みずからの文書管理意識の向上が期待できるためである。
   ・その他レファレンスサービスや刊行物の発行、国内外の来賓対応(展示室案内・京大の歴史の解説)も行っている。

4.京大文書館の諸課題から、大学アーカイブズの可能性を考える
(1)個別的課題
   ・現用部局において適切な法人文書管理が出来ておらず、移管時に問題が発生する。
    現用文書の管理(レコード・マネジメント)に対する働きかけが必要ではないか。
   ・公文書管理法への対応により、現状でおこなっている非現用文書の全量移管ができなくなるなど課題は多い。
   ・非現用法人文書等の新規資料の公開が停滞している。
   ・研究資料や卒論・修論等の大学特有の資料に対する管理について。現在は明確な規定がない。 
(2)長期的課題
   ・大学アーカイブズによる教育活動としては自校史教育が中心であったが、アーカイブズ学教育も必要となるのではないか。
   ・アーカイブズをよく知らない人へのアウトリーチ活動が必要。
   ・拙稿「大学アーキヴィスト論」において大学アーキビストの4類型(整理者・研究者・管理者・教育者)を指摘したが、それ以外の役割も実はあるのではないか。
   ・日本の大学アーカイブズは世界的に稀な形態をとっている。そのことを逆手に日本の大学アーカイブズの固有性を考えることにより、世界のアーカイブズ学研究へ寄与できるのではないか。

5.大学アーカイブズのこれから
  ・大学アーカイブズは教育的機能を重視することで、大学理念の実現の一翼を担うより主体的な存在へと展開していくべきである。


Q&A、フリートーク

Q.京大において200年史編纂にも使用できるような情勢的文書などを大量に廃棄するということを聞いたことがある。それは大学の方針なのか。
A.そのような話は聞いたことがない。ただ、できればすべての文書を保存したいが、書庫スペースの関係などから廃棄せざるを得ない。廃棄対象となる文書はルーティンワークのものが中心となる。予算資料や研究関係、会議議事録などのように、後から参照される頻度が高いものや、部局から希望のあったものは保存している。廃棄については、大学の方針というより、文書館の基準にしたがって行っている。

Q.組織文書をどう扱うかということになるかと思う。自分の所属する組織では保存するのは10%を切る。現在では重要なやりとりでもあえてメールにさえ残さないこともある。
A.現用段階の議論となると思う。大学アーカイブズでは移管されたものをどうするかということになるが、現用文書の管理にもアプローチをしていきたい。

Q.公文書管理法への対応について。施行令でいけるのではないか。
A.文書館での評価選別「権限」の今後の取り扱いについて、法律ではたしかに作成部局の職員が保存か廃棄かの決定をおこなうこととなっている。ただ、すぐに当該部局の職員に選別の判断を任せるのは難しいのではないか。ある程度、文書館の側がコミットする必要があると考えている。方法としては、その年度に保存期限満了を迎える文書を移送してもらう、あるいは文書館職員が各部局の書庫などに出向くことなどが考えられる。

Q.アーカイブズという呼び方についてなぜ複数形なのか。また大学アーキビストはどのくらいいるのか。
A.あくまで推測だが、資料が単体としてではなく、まとまりとして残されてきたことから、そのコレクションなり集合体を呼ぶ際に複数形になったのではないか。外国では複数形の「アーカイブズ」と言うのが一般的。私が考える意味での大学アーキビストは、全国でも20人程度ではないか。

Q.大学アーカイブズのこれからについて。大学アーカイブズの教育的機能とはどのようなことを考えているか。
A.大学では講義が第一に挙げられるが、それ以外にも、文書の使い方や検索の方法に関する学生へのアドバイスなども教育的機能と捉えられるのではないか。大学という組織がどういうところかというところを重視する。

Q.歴史研究以外で、アーカイブズの利用のされ方とはどのようなものか。(とくに事務職員利用)
A.例えば、退職職員の勤務日数の証明のために出勤簿が利用されたりする。なお、利用目的を聞くことで、文書の使われ方や選別の判断材料にしている。

Q.出勤記録についてはグループウェアで管理されるようになっているが、そのようなものはどう残すのか。
A.電子文書の保存についてはどの大学や組織でも悩んでいると思うが、現在のところ、文書館で電子文書の取り扱いに関する主体的な取り組みはない。個人的には紙が最も確実であり、電子状態で残すのは永続的ではなく、きわめて危ないと考えている。今は電子文書は保存していない。

Q.5年間の任期期間について長かったと思うか。大学には教員と職員しかいないが文書館は教員である。事務職のような面もあるがアーキビストとしてはどうか。
A.いろいろな仕事を経験できたという点では、長いと言えるかもしれない。アーキビストは教育者の役割はあるが、必ずしもそれが教員である必要はないと思う。

Q.法人文書の範囲はどこまでか。生協や寮、同窓会、学会の資料は含まれるのか。
A.組織アーカイブズとしては法人のみ。ただ、文書館は収集アーカイブズの機能もあるので、その観点から寮などの資料を保存している。



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