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学習会記録(第175回)


日時:2010年7月15日(木)
出席者:15名
内容:「図書館の自由宣言の想定射程距離 図書館雑誌からみえてくるもの(1952-1954)」
発表者:岡部晋典(千里金蘭大学現代社会学部講師)

■自己紹介
・1982年生まれ。筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士後期課程休学中。現職は千里金蘭大学現代社会学部講師
・大学では科学哲学者K.R.Popperを研究

■研究のきっかけ
・選書論や擬似科学図書を研究していたため。
・「図書館の自由に関する宣言」について素晴らしい綱領とは思う。しかしながら現代の図書館事情(貸出履歴の活用に関する動き等)にそぐわなくなってきているのではないかという個人的な不満を感じる→成立過程に立ち戻ってみようと考えた。

■図書館の自由宣言の成立過程
・図書館の自由宣言は図書館雑誌を舞台に成立した。しかし、成立過程について図書館関連の教科書にはあまり取り上げられていない。
【図書館雑誌vol.46 No.6(1952年)座談会「占領は日本の館界にプラスであったか」】
 終戦を境に図書館界は状況が大きく変わった(働く人は同じ)。占領中の立法である図書館法を改正しようとする動きがあった。


【図書館雑誌vol.46 No.7(1952年)第6回日本図書館協会総会議事録】
司書資格取得に必要な単位数の議論。図書館の歌の作成提案。有料化論等。
編集後記に有山崧が破防法への反対を図書館として表明しようという動議に反対。
図書館は政治問題に関わるのではなく、政治問題を理解するための資料を提供するインフォメーションセンターであるべき。→図書館の中立性とは何か、という論争。自由宣言の源流・前史。

【図書館雑誌vol.46 No.8(1952年)】
 図書館の中立についての議論。

・閲覧証問題、政治思想の図書の読書履歴、破防法などの時代背景の影響
・1953年10月図書館憲章(委員会案)提出
 ALA採択「図書館の権利宣言」の影響
 →基本的には図書館員の賛成を得る。

【図書館雑誌vol.48 No.2(1952年)】
戦前の推薦図書への批判

【図書館雑誌vol.48 No.4(1952年)】
教育の中立性論争と関係。とくに目次で項目立てをしている

【図書館雑誌vol.48 No.5(1952年)】
「ALAと知的自由」の訳文の引用。

■図書館の自由宣言の成立
・1954年5月28日 第7回全国図書館大会
・1954年5月28日 第8回日本図書館協会総会
 「図書館の自由宣言」採択は全会一致には程遠く(賛成・反対が拮抗)、白熱した議論を経て採択された。「抵抗する」「各方面への協力」の文言などが論点に。
この後1979年の改訂を経て現在のかたちに。
・参加者の多くは若い人たちであった→いわば青臭い文言も多い
・戦前の図書館が思想善導機関であった反省。当時ならではの例えばマルクス主義といったイデオロギーの影響をつよく受けている。

■今後の課題
・図書館雑誌以外のフォローなど課題が多くあるが今後も研究を続けていきたい。


Q&A、フリートーク

Q.先行研究に『図書館の自由に関する宣言の成立』というものがあり、それが2004に復刻されており、今回参照された資料も多くが入っているが?
A.フォローしていなかった。ご教示多謝。

Q.10年以上前に司書資格を取ったが、自由宣言に関する課題が多く出た。自分自身では叩き込まれている。
A.自由宣言が各大学でどう教えられているのかを把握するのは難しい。ただ、現在使われている教科書の中ではそれほど取り上げられていない印象がある。


Q.試験問題にでているかを見ると重要度が分かるのではないか。
A.それは面白い観点だが、昔の試験問題を調査するのは困難であると思う。


Q.図書館での貸出履歴の使い方について
A.オプトアウトはそぐわないとは思う。いくつか履歴活用サービスがあるが、読書履歴の記録を承諾しないとそのサービスは使えないようになっている。また、記録を取りやめると過去に遡ってログを廃棄する。このように配慮する仕組みになっていても批判がでる。

Q.貸出履歴の活用に関して問題となっている「利用者の秘密を守る」が当初は無く、1979年の改正時に加わったのが意外と感じた。
A.富山の図書館で天皇コラージュ芸術作品の図録を廃棄した事件が契機となって追加されたと言われている。
(会場からはテレビドラマの問題や山口の蔵書隠匿事件を経て見直しの委員会ができ改正されたのではないか、コラージュ事件は改正の後ではないかという意見もあった
 発表者註:その通り山口でした。富山は1986年。お詫び申し上げます)

Q.貸出履歴の提供については、時代によって世論が違ってきているのではないか。警察が礼状を持ち貸出履歴の提供を求めることに対して嫌悪感がある時代と異なり、現在ではそのような犯罪があるなら図書館は隠すべきではないというような世論が強くなってきたのではないか。
A.サリン事件の件ではオウムに関するものは何でも出してよいという動きがあったが当時あまり問題視されなかった。

Q.当時は読書記録が個人の思想に関する重要な情報だったが、今はパソコンの方がそのようなデータが多い。それに関して同じような議論はあまり聞かない。
A.図書館だけで完結してしまっているのではないか。

Q.大学図書館員は議論に参加していたのか。
A.名簿を見ると東京などの地域のごく少数の大学図書館員しか参加していない。

Q.図書館の自由宣言の成立時期に現職でいた。今は大学で図書館特論で取り上げている。図書館の自由宣言がマスコミ上でどう取り上げられているか、世論が自由宣言をどうとらえているかに興味があり収集している。新聞報道では図書館の自由宣言があるのになぜ図書館はやっているのかという論調がある。図書館思想史では自由宣言の果たしている役割が大きい。JLAの自由宣言のポスターを貼ることについて、昔は行政(親機関)の意見によりポスターを貼ることが難しい時代があった。今はそういうことは無い。今は人々に自由宣言が受け入れられているのではないか。
A.図書館の自由宣言そのものが社会に広く浸透しているかどうかはまだ疑問がある。ちなみに有川浩『図書館戦争』で初めて知る人という人も多い。

(参加者の意見)
・図書館の自由宣言は当時リベラルな旗印となっていて、首長の色に左右されてきた時代があった。今は行政の長の選ばれ方がちがう。図書館の自由宣言は政争の具から外れてきた。
・この時期は校長組合など全校一体の時期だった。図書館協会の中の構成・動向を調べてはどうか。時系列で流れを読めたらいいのではないか。フィールドに落としてやると面白いのではないか。

(後日メールにて補足)
最初の指摘(先行研究)に関して:
A.ただし「中立」に関する言及がないことと、「慣れを伴って安易に処理される傾向が見られるにつけても,宣言採択時の緊迫した状況を追体験する必要を感じる」という復刻版の後書きが、むしろ個人的には時代背景にそぐわないことの証左とも感じる
Q.『成立』の「編集」の視点を追求してもいいかもしれない。歴史認識の問題として。今後の「読み直し」作業が、学校の運動や、地域の文化運動、政治状況もこみこみで行われるのを期待




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