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学習会記録(第169回)

日時:2009年11月19日(木)
出席者:7名
内容:「公共図書館の障害者サービス〜府立図書館の事例を中心に〜」
発表者:仁科 豪士(京都府立図書館)

障害者サービスの歴史と府立図書館での取り組みについての発表と、デイジー図書の実演があった。(詳細はレジュメ参照)

自身の紹介
・先天的な緑内障で初めから目がほとんど見えていない。6歳頃までは明暗の識別はできた。その後高校生の頃に完全に全盲になった。
大学4回生の秋に、京都府の身体障害者枠採用試験を点字受験し、1991年に採用、2002年から府立図書館に勤務している。

1障害者サービスとは
・図書館の障害者サービスとは身体障害者や知的障害者などを考えがちだが、通常のサービスを受けられない人にすべての資料、すべての図書館サービスを提供することである。

・図書館利用の障害の種類
ア)物理的障害
・身体障害者のほか、入院していたり施設入所などの理由で来館できない。
・来館できても書架の間を自由に移動できない、高い所にある資料をとることができないなど。

イ)資料をそのままでは利用できない障害
・視覚・聴覚・上下肢障害やディスレクシア(読字障害)などにより、そのままでは図書館の資料が利用できない。

ウ)コミュニケーション障害
聴覚障害者、外国人で日本語を喋れないなど、図書館サービスを利用する際に図書館員とのコミュニケーションが困難である。

これらのサービスの現状、歴史を書いた本として『見えない・見えにくい人も「読める」図書館』(公共図書館で働く視覚障害職員の会/編著、 読書工房 2009.11刊行)が最近刊行された。

このように障害者サービスはいろいろあるが、今回は視覚障害者サービスを中心に話をする。

2京都府立図書館の障害者サービスの沿革
1970年4月、東京都立日比谷図書館で録音図書の製作・貸出、対面朗読を開始
→点字図書館の蔵書は鍼灸、あんま関係の資料が中心で、その他の専門書が少なく、これら専門書の提供は文部省所管の図書館の業務であると考えられていた。このため、視聴覚障害のある学生を中心に公共図書館での障害者サービスの実施を求める声が高まっていた。
70年代:大阪府立夕陽丘図書館などで対面朗読開始。
80年代:昭和57年より京都府立図書館でも対面朗読開始。その後点字・テープ図書の貸し出しなども始まるが、蔵書として残るようなテープ資料は作成できず、蔵書は市販の資料を購入した物だった。
97年4月:新館の建替のため本館を休館する。
2001年5月:新館オープン、視覚障害者サービスを対面朗読室2室で再開。
2002年:対面朗読の利用促進を図るため、制限の緩和など制度の見直し(利用回数の制限廃止、点字版、拡大文字版の利用案内の作成等)
2003年4月:近畿郵政局長から「盲人用録音物等発受施設」の指定を受ける(これにより送料が無料となり、視覚障害者対象の郵送による音声資料の貸出開始。)
2004年:市販のデイジー資料の購入、貸出開始。墨字版、点字版の「所蔵デイジー資料目録」の作成、利用者への配布開始。
2007年:図書館HPに「デイジー資料一覧」と新着案内の掲載開始
2009年3月:デイジー版、墨字版の「所蔵音声資料目録」作成(発表者作成)。府内の図書館、盲学校、視覚障害者施設等に配布。
2009年4月:府立盲学校への連絡協力車の運行開始

3京都府立図書館の障害者サービスの内容及び利用状況について(利用案内参照)
ア)障害者サービスの内容
・図書館HPのユニバーサルデザイン化
・誘導ブロック、多目的トイレ、車椅子用閲覧席などの施設・設備の整備
・ファックスによる調査相談の受付
・対面朗読(音訳の実績のある方に協力者として交通費程度支給の半ボランティアさんによる)
・点字・音声資料(テープ・CD・デイジー)、大活字本(障害の有無に関わらず誰にでも貸出OK)の貸出
・拡大読書機、音声読書機の利用、貸出冊数、期間の配慮
・国立国会図書館学術文献録音サービス申し込み受付
・音声資料所蔵状況:テープ881タイトル、CD588タイトル(以上2008年12月現在)、デイジー607タイトル(2009年10月現在)

イ)2008年度利用状況(カッコ内は2007年度利用状況)
・対面朗読:実施回数48回(47回)、実施時間96時間(94時間)
・音声資料の貸出:テープ30タイトル(34)、CD281タイトル(311)、デイジー235タイトル(141)

4他館で行なわれている障害者サービスの事例
・障害者用冊子小包などを利用した墨字資料の郵送貸出(郵送料が半分になる)
・点字、録音資料の製作、貸出
・点字絵本、触る絵本、布の絵本の製作、貸出
・視覚障害者のパソコン利用サービス(インターネット閲覧、点字図書の利用、デイジー資料の視聴、電子ブックやCD-ROMの利用等)
・視覚障害者を対象としたデイジー再生機、パソコン等読書支援機器の利用講習会
・盲聾者を対象としたパソコン講習会(パソコン画面の表示を点字ディスプレイに表示させ、それを読んで操作する)
・聴覚障害者用字幕付きビデオの製作・貸出

5デイジー(DAISY)について
・デイジー(DAISY)とは「Digital Accessible Infomation System」(アクセシブルな情報システム)の略称。デジタル録音図書製作のための国際標準規格。
・デイジーには、1枚に最大50時間程度の録音データの収録が可能であり、聞きたい箇所への移動やしおり付けが容易で音質が劣化しない等の利点がある。
・AV資料のデジタル化が進む中、カセットテープの入手が困難になる事態を想定して、日本、スウェーデン、イギリスが中心となって開発。1997年に国際標準規格として制定された。
・デイジーはテキストや画像、動画を組み合わせた資料(マルチメディアDAISY)の製作も可能で、視覚障害者のみならず広い範囲の障害者に利用可能な資料を作ることができる。
・デイジーの詳細については、(財)日本障害者リハビリテーション協会のHP(http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/)を参照のこと。
・また、デイジー図書のインターネット配信サービスもある。詳細はびぶりおネット(http://www.iccb.jp/biburio/biburio_main.html)を参照
・発表者は府立図書館のDAISY図書目録を作成した。これは分類番号ごとにチャプターが付いており、すぐに再生できるようになっている。その反面、目次の階層が深くなりすぎ、初心者には使いにくいかもしれない。

ここで、発表者が実際の再生機を使って、デイジー図書の実演があった。

6著作権法第37条の改正について
・今まで、資料の点字による複製は誰でも自由に行なうことができていたが、録音資料については、盲学校やライトハウスなどでしか自由に作成できなかった。
・今回の改正(2010年1月1日施行)で、無許諾で録音資料を作成できる施設に国会図書館、公立図書館、大学図書館、学校図書館等が追加され、録音資料の複製や譲渡も可能になる(見込み)。また、拡大文字版やテキストデータ版などの作成や複製、譲渡も可能になる。
・利用対象者も視覚障害者だけでなく、ディスレクシアなど活字による読書が困難な人全体に拡大される。
・但しすでに録音資料が出版されている作品について新たに音声化したり、インターネット配信する際には著作権者の許諾が必要となる。
府立図書館の録音資料は市販されているもののため、著作権法の改正後も、例えばテープ資料をデイジーに変換したり、CD版のデイジー資料をSDカードなど他の媒体にコピーしたりすることはできない。

今回の著作権法改正の背景
2006年に障害者権利条約が国連で発効され、日本も批准の準備をしている。この条約では国の責任において障害者の権利を保障することとされており、批准に向けた条件整備の一環として著作権法が改正された。
もしこの条約が批准された場合、障害者から利用の申し出を受けた機関が、一定期間たっても必要な配慮を何もしないと、差別したとみなされる可能性がある。


Q&A
Q:府立図書館ではデイジーの機械の貸し出しは行なわれているのか?
A:貸出は行っておらず、来館して聞いてもらうしかない。障害者資格1,2級の人には購入の補助金が出ている。また現在はパソコンでデイジーを再生するフリーソフトがある。
(出席者から)ライトハウスでは貸出をしている。

Q:デイジー資料作成の機器類は?
A:録音専用機と、PCソフトを使って作成するものと2種類ある。
(出席者から)PCへのダイレクト録音についてはあまり普及していない。ライトハウスのボランティアの中でも現在研究中である。

Q:府立図書館の目録はどのようにして作成したのか?
A:音訳協力者で作成の経験がある人に録音してもらい、それを発表者が編集した。

Q:日本図書館協会の音訳に対する一括許諾名簿について、あれは作品にたいしてか、著作に対しての許諾か。
A:私も良く知らない。もしかしたら作品のみかすべてか著者が選べるようになっているかもしれない。




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