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学習会記録(第163回)

日時:2009年3月19日(木)
出席者:6名
内容:「平成20年度漢籍担当職員講習会受講報告」
発表者:合田 淳(京都府立総合資料館)

平成20年度の漢籍担当職員講習会(初級・中級)に参加した報告が行なわれた。
*詳細は配布資料参照

○講習会の目的:大学図書館・公共図書館等において、漢籍(中国人によって書かれた漢文の書籍)の取り扱いに関する知識と技術を普及し、学術資料としての漢籍の有効な利用体制の整備を図る
○開催期間:初級:平成20年10月6〜10日、中級:平成20年11月10〜14日
○会場・主催:京都大学人文科学研究所附属漢字情報研究センター(http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/
○講習の概要
・京都大学人文科学研究所附属漢字情報研究センター(以後漢字情報センター)で行われている漢籍の整理法を学ぶ
・初級・中級ともに、一日のうちで講義と目録作成実習がある
・講義は初級は漢籍の概要について、中級は漢籍の分類法について
○漢籍とは
・中国人が漢文(文語)で書いた書物で、外見が洋装であっても、中身(著者と文体)によって漢籍かどうか決める
・中国人以外の漢文による資料(和刻本・朝鮮本)は準漢籍として扱う
・和刻本とは、日本人が漢文で書いたもの、朝鮮本は朝鮮人が漢文で書いたもの
・漢籍以外にも漢字情報センターでは、準漢籍や研究に重要な書物を登録している
 例:1911年(辛亥革命)以前に中国人によって書かれた口語体の書物(「西遊記」や「水滸伝」など)
○分類法(四部分類)
・以下の四つの部に資料を分類する
・経部:儒教の特定の古典と注釈書
・史部:歴史・地理・行政文書・社会科学
・子部:哲学・宗教・芸術・科学など(儒教以外の思想・宗教)
・集部:詩集・文集・小説・書簡など文学
○漢籍整理の実践
・『漢籍目録−カードのとりかた 京都大学人文科学研究所漢籍目録カード作成要領 』(京都大学人文科学研究所附屬漢字情報研究センター編)によって作成する
・漢字は原則旧字体を用い、現物の資料には当用漢字・簡体字で書かれていても旧字に翻字して入力する(漢字の筆画順で並べるので、字体を統一する必要があるため)
1.書名
・題箋、表紙、序文、目次、奥付等の書名はあとで改変されていることもあるので、巻頭(本文の第1ページ目)の書名を採用する
・書名の後に巻数を続けて記入する(冊数ではなく、中身の巻数)
2.撰者(編著者)
・「撰」は著者、「輯」は編者、「注」は注釈者、「校」は校訂者、「訳」は翻訳者の意味
・本姓名を記入するが、資料に書かれている名は本姓名でないことが多いので、人名辞典で本姓名を確認する
・清朝までの人物の場合は、王朝名を撰者名の前につけるが、先秦以前の著作には王朝・撰者を記入しない
・共同執筆で撰者の分担箇所が記されている場合は続けて書き、分担が不明の場合は最後に「同撰」と記述する
3.鈔刻(出版事項)
・出版年、出版地、出版者、版木の所在、出版方法の順に記述する 例:嘉慶五年呉氏香雪山莊刊本(嘉慶五年にの呉氏が香雪山莊で木版印刷によって出版した本)
4.出版方法
・刊本(一枚板の版木による出版)、活字印本(ヨーロッパ技術でない組版)、排印本(ヨーロッパ技術による組版)、石印本(薬品を混ぜた墨で紙に手書きしたものを石版に転写して印刷)、油印本(謄写版、ガリ版)
・鈔本(手書きの写本)、稿本(原著者の手書き)、拓本(石碑の碑面を摺り写したもの)
・景印本(影印本)(底本を写真に撮って紙に印刷した本)、景照本(えいしょうぼん)(写真をそのまま製本したもの)、景刊本(底本の紙を版木にかぶせて彫った版木で印刷した本)
・底本(写本や複製本のもとになった本)をもとに新たに版を起こした場合:「據(きょ)」以下に底本の情報を記す
例:民國二十五年南京中國水利工程學會據同治八年集韻書屋刊本排印(民國二十五年に南京の中國水利工程學會が、同治八年に集韻書屋が版木によって出版した本を底本として、ヨーロッパ組版により出版した本)
・景刊本、景印本、景照本の場合は「用」以下に底本の情報を記す
○叢書について
・「叢書」・「叢刻」は一つの叢書名がついているが、「合刻」は叢書名がつけられていない
・「彙編」・「叢書」は異なる分類の著作を集めたもので、「類編」・「叢刻」は同じ分類の著作を集めた叢書
・叢書を内に含む新しい叢書が出版され、その繰り返しで複雑な階層構造になっている
・叢書については、主カード(親・総タイトル)と子目カード(個々の書名のデータ)を作る
○四角号碼(しかくごうま)
・漢字の検索法のひとつ。漢字の四隅(角)の形から4桁の番号(号碼)を求め、番号から漢字を検索する
・角のすべての形は10パターンに分類され、0から9の番号をふられ、漢字の左上、右上、左下、右下の順で番号をとる
○冊子目録とデータベース
・以前はカードを作成し冊子目録を編纂していたが、現在は全国漢籍データベース(http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/kansekikyogikai/)に移行している
・データベースはできるだけカードの形式が残るように設計されている
・データベースへの入力は「漢籍レコードエディタ」を用いている(以前はタグも含めて手入力をしていたが、入力ミスが多かったため)
・漢字は原則旧字体を用い、検索結果の表示順は、タイトルの部首画数順→撰者の部首画数順
・検索結果に封面と巻頭の写真画像がついている資料もある
○漢籍目録はNacsis-Webcatの目録の取り方とは異なる点が多く、漢籍のデータはWebcatでは登録できないため、漢籍のデータ登録のためには新たにデータベースを開発する必要があった。
○Nacsis-Webcatとの違い
・全国漢籍データベースでは旧字で入力するが、Nacsis-Webcatでは資料にある記述のまま入力
・Webcatで想定される近代的な本は、同じ本が多量に刊行されたもので、1つの書誌に複数の所蔵データをつけられるが、漢籍の場合は書名・撰者が同じでも版が異なることが多いため、1書誌1所蔵になりがちである
・叢書の扱いについて、漢籍は再版されるときに他の本とまとめて叢書として刊行されることが多く、叢書も階層構造になっているが、Webcatでは複雑な階層構造の入力が困難
○Webcatとのデータ共有
・2006年から試験的にNacsis-webcatにデータを提供している
・構造が異なるため、漢籍データベースの1%未満の6000レコードしか自動処理できなかった
○全国漢籍データベースへのお誘い
・参加条件は特になし。段ボールに入ったままで未整理の資料等、運用していない資料でなければ、各館のカードや冊子目録、リストから、京都大学の経費(科学研究費補助金)でデータ化する
・現在約60機関が参加(100機関を目標)
○和刻本について
・江戸時代に日本で出版された漢籍(長澤規矩也氏の命名)
・翻刻明刊本(中国の明の時代の書物に訓点をつけて複製したもの)が多い
・書肆(本屋)の出版が多い(初期:京都 → 中期:大阪 → 後期:江戸)
○和刻本以前
・旧刊本:南北朝から室町時代に多く出版された書籍、五山版(京都・鎌倉の寺院出版)など
・仏典:奈良時代・平安時代にも出版
・古活字版(慶長活字印刷):秀吉の時代に朝鮮から取り入れ、50年ほど流行
・『和刻本漢籍分類目録』(汲古書院)に和刻本すべてが収録されている
○目録作成実習での注意事項
・えんぴつ、消しゴム以外の筆記具は使用禁止(シャープペンシルも不可)
・資料は出納、返却の際以外に持ち歩かない
・開いたまま置いていかない

Q&A
Q:正字の判断はどうしているのか?かなり判断が難しいように感じるが。
A:漢字に関する知識と慣れが必要。安易な方法としては漢籍のデータベースで検索するのがいいのではないか。

Q:著者の説明で先秦以前の場合には王朝名を入れないとあったが、具体的にはいつごろか
A:秦の始皇帝が統一してからの資料については王朝名を記入する。

Q:出版方法で、活字印本と排印本、景印本と景照本の判断はどこでするのか?
A:前書きや後書きに出版の経過を書いてあることが多いので、そこを参考にする。活字印本と排印本等の判断については、多くの資料に触れて慣れるしかないのでは



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