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学習会記録(第158回)

日時:2008年10月15日
参加者:8名
内容:「ハーバード日記:海外図書館実地研修の実際」
発表者:江上 敏哲(国際日本文化研究センター)

2007.3〜2008.3にハーバード図書館で研修した内容について、主に目録の点に着目しての発表があった。(詳細はレジュメ参照)

この研修の概要
・東アジア図書を受け入れている、Harvard-Yenching Library(以下HYL)によるVisiting Librarian受け入れ事業(中・韓・日)
・日本からは毎年1名ずつ、3年のプロジェクトである。
・内容は図書館での調査・実務体験・交流を行うことで、研修者自身によるテーマでの調査など割とフリーなプログラムである。
・Visiting fellowとして、HYLのJapan Acquisition Sectionに滞在。
・滞在中に京都大学図書館機構Webサイトにて「ハーバード日記」を連載、研修成果、見聞・体験、アメリカ大学図書館の現状などを記事にして伝える。
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/wordpress/

ハーバード大学図書館の概要
・資料数、約1600万冊(書籍類のみ) 図書館・室数80〜90館
・1636年に開学、1638年に図書館が出来る。1915年にWidener図書館、1928年にHYL、1949年にLamont図書館が開館
・大学図書館の構成としてはHYLなどの属するHarvard College Library(HCL)とそれを包括して、Law Libraryなどが所属するHarvard University Library(HUL)がある。
・Widener Library:ハーバードの中央図書館、蔵書数は630万冊でアメリカの私立図書館でも最大規模。人文・社会系中心で100言語以上の図書を所蔵している。
・Lamomt Library:アメリカ初の学部学生用図書館、蔵書数は18万冊で、2005年からは24時間開館。基本的に保存はしない。
・Harvard-Yenching Library:北米最大級の東アジア図書館(蔵書数第3位)、蔵書数は約120万冊(中国語70万冊、日本語30万冊、韓国語13万冊、モンゴル語、ベトナム語など)、職員数は約40人、10年前までは、独自分類の「イェンチェン分類」を採用していた。現在はLC分類に移行している。

古典籍補遺目録出版事業
・1994年刊行の『ハーバード燕京図書館和書目録』から漏れた約1000冊について目録を作成する。
・2004年ごろからプロジェクトとして開始、書誌調査&執筆は国文研の鈴木淳教授他で2008年6月に『ハーバード燕京図書館の日本古典籍』として、発行。
・発表者の手伝ったこと:資料現物の整理(本がばらばらになっていたので、整理してどのデータの本かわかるようにする)、書誌調査のサポート、書名・人名のローマ字化、イェンチェン分類の付与。

テクニカルサービス部署(HCL Technical Service)
・ハーバード図書館におけるテクニカルサービスの専門部署。
*アメリカでは目録などの書誌作成の仕事をTechnical Service、カウンターでの閲覧業務をPublic Serviceとよんでいる。
・業務内容:Widener Libraryの資料受入・目録業務、HYL以外の、全ての図書館の発注から目録作成までを行う。
・OCLC WorldCat(日本のNACSIS-Webcatのような総合目録)に書誌が無い場合
1. 簡易な書誌レコードを自館のOPACに登録する。
2. 地下のバックログ書架に置き、利用者リクエストがあると、滞架専門整理班が正式な書誌を作る。また、OCLCと照合して、書誌が作成された資料を検出するプログラムを使っている。
・滞架は2008年3月現在で約15000冊、2005年に10万冊にまで膨らんだので、整理のための特別プロジェクトが組まれた。
・アウトソーシングはOCLC TechProやヤンキー・ブック・ペドラーなどが行っている。

次世代OPAC・目録の検討(ハーバード大学)
・Task Group on Discovery and Metadataが2006年秋に発足
・学内のDiscovery&Metadataのあり方を検討、短期的アクションの提案
・2007年9月に最終報告
・内容:ユーザーの情報環境と図書館サービスの革新、技術革新のスピードに追いつくために1,2年の短期的アクションプランを優先、ただし今までの成果を重視し、それを活用する方向を目指し、慎重に行動する。
・短期的アクションの内容
 次期OPACに向けてのシステムの調査
 ファセット・レレバンス・FRBRizedを優先
 目録情報の豊富化
 業務効率化のため、成功例の情報を共有する
・Discovery and Metadata Coordinating Committee
2007年秋発足、カタロギング、図書館システム、情報サービス等あらゆるグループを統括する
次世代OPAC等のDiscoveryシステムと、新しいcataloging体制の構築のための舵取り

OCLCにおける日本語対応の経緯
・OCLC:1967年設立。コンピューター・ネットワークを通して、図書館活動に必要な情報・サービスを提供する、非営利団体
・アメリカを中心に、112カ国6万館以上
・WorldCat:書誌レコード8000万件 所蔵レコード13億件
・1986年から日本語対応し、2002年から本格的に運用している。
・2008年2月現在、日本語資料の書誌レコードは約428万件
・レコードはMARC21方式、CJK(中日韓)文字コードはUNICODEではなく、MARC-8
・TRC、早稲田から日本語書誌を定期的に一括提供
・問題点:日米で書誌作成方針が異なる、北米使用に合致しないデータの混入、上書き、文字コードがUNICODEでない

マンガのカタロギング(オハイオ州立大学)
・Cartoon Research Library マンガ資料専門の研究図書館・特殊文庫
・日本のマンガ・関連図書 約10000冊
・1977年設立、1998年ごろから日本人司書により集められる。
MANGA Cataloging Manual
・日本のマンガに特有の出版事情・形態、書誌記述についての解説、用語説明
・特徴1 サマリー:内容紹介を入力できる。
・特徴2 ジャンルターム:アメリカ人は、ぱっと見ただけではどのようなジャンルの本かわからないので、ジャンルを独自に設定している。
例:Boy's manga、Romance manga

Q&A
Q:バックログの書架は現在はどのくらい処理されているのか?また、OCLCの検出プログラムでの検出はどのくらいあるのか。
A:具体的な数字はちょっとわからない。滞架は以前からは減っているので、少なくとも新たに入った冊数ぐらいは処理されていると思う。

Q:古典籍補遺目録で調査している資料の貸出要求があった場合はどうしているのか。
A:HYLでは館内の利用者室でしか閲覧できず、貸出もしていない。書庫へは専門のスタッフしか入れない。

Q:整理している中で、資料の言語の区分けミスはあるのか。
A:それはなかったが、中国語資料の中に日本で発行された漢籍が混じることもある。(日本で発行された漢籍は日本語資料として扱う)

Q:オハイオ州立大学にはマンガの研究者がいるのか。
A:ここの資料は、どちらかというと特殊文庫で、集めるのが目的である。オハイオ州のマンガ収集家からもらった資料が発端となっている。現在はマンガを読みに来る目的の人がほとんど。

Q:マンガという単語について昔はアメリカの漫画はコミックブックといったが、今はどうなっているのか
A:アメリカでは日本のコミックをマンガと言い、欧米のコミックはマンガとは言わない。言葉の使い分けはしているようだ。

Q:CJKの区分はどうやって行っているのか
A:特に定まった規則はない。図書館内でも統一した考えはないようだ。



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