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学習会記録(第138回)

日時:2006年7月20日(木)
出席者:10名
内容:「いたりあ日記〜欧州日本語資料図書館見学旅行の報告(2)」
発表者:江上 敏哲(京都大学付属図書館)

2005年12月に行ってきたイタリアの日本語図書館について話をされた。

0.イタリア図書館事情
・国立図書館(Biblioteca Nazionale):昔の都市国家の影響で各地(ローマ、フィレンツェ、ナポリ、ミラノ、ヴェネツィア、トリノ、 パレルモ)に7館ある。そのうちローマ,フィレンツェの2館が国立中央図書館(Biblioteca Nazionale Centrale)と呼ばれ、法定納本図書館となっている。
・SBN:1992年から始まった全国規模の図書館総合目録ネットワークシステム。分散しがちな各図書館を”総合目録の提供”でまとめる。大学・国立・公共ほか各種図書館(2300館)が参加しているが、今回行ったナポリ東洋大学,ヴェネツィア大学は未参加となっている。
・ACNP:1988年から始まった国内所蔵逐次刊行物の総合目録データベース。ボローニャ大学が管理・調整。参加館は約2500館。こちらにはナポリ東洋大学は参加しているが、ヴェネツィア大学は未参加となっている。
・日本研究・日本語教育の経緯
1860-80年頃 各地の大学で日本語講座・日本研究部門が開設
1933年 IsMEO(中亜極東協会)、現在のIsIAO(アフリカ東洋研究所)が設立
1962年 ローマ日本文化会館開館
1973年 AISTUGIA(伊日文化協会)設立
1980年代後半 日本の経済的発展から,日本語学習者が増加する。
2000年以降 マンガ・アニメ・デザイン等,ポップカルチャーへの関心から,日本語学習者が増加。(日本語学習者数:2000年、約3,500人→2004年 約6,500人)
・日本語を学習する学生が多い大学:ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学、ナポリ東洋大学、ローマ・ラ・サピエンツァ大学
・イタリアの日本語資料図書館
蔵書数1万冊以上の図書館(オックスフォード大学の日本語資料は約10万冊)
ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学東アジア学科図書館、ナポリ東洋大学アジア研究学科図書館、国際交流基金ローマ日本文化会館図書館

1.ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学 東アジア学科図書館
・1868年創立、創立当初は商業・経済専門の高等教育機関、学部数4学部(経済,文学・哲学,外国語・外国文学,自然科学)ある。教員数は約500人、学生数は約17,000人
・東アジア学科図書館:1873年に日本語講座開始、1965年に日本研究所設立(日本語・日本文学科としての独立した図書室あり)。2002年に中国・日本・韓国の各学科が東アジア学科に統合、現在の建物(島で新しい建物を建てる土地がないため、大学の建物とは別の数百年前の建物をそのまま使用)に仮移転。いわゆる“図書室”と呼ばれる部屋はなく、学科内の各所(学習室・講義室・カンファレンスルーム・教員室・廊下)に書架を分散配置。そのためBDSは学科の入り口に配置されている。場所は学習室にあれば“開架”、教員室にあれば“閉架”となる。図書館スタッフは2人。
・蔵書:全館で図書約75,000冊うち日本分野は約11,000冊(和書約4,700冊,洋書約6,300冊)。雑誌約120誌(和雑誌約40誌,洋雑誌約80誌)。年間資料購入費は10,000eu、受入図書は約600冊でカレント雑誌は約70誌。
・特徴:外国語・外国文学部ではあるが,語学・文学以外(社会学など)の資料も求められる。建築・美術等外部からの利用者もあり。
・目録:SBN、ACNP共に未参加、大学独自OPACはCJK・UNICODE未対応、日本語書誌はローマ翻字(教員による)。遡及入力はほぼ完了、NACSIS-CAT参加予定なし。

2.ナポリ東洋大学  アジア研究学科図書館
・18世紀前半にCollegio dei Cinesiとして開講、19世紀後半にアジア・オリエント地域の語学・研究に重点を置いた大学(日本研究部門も開講)となる。学部数4学部(文学・哲学、外国語・外国文学、政治学、アラブ・イスラム・地中海学)
・アジア研究学科図書館:1984年に各分野の図書室が統合。場所はスパッカ・ナポリの中心地で17世紀の建物をそのまま使用。図書館スタッフは8-9人
・蔵書:全館で図書約21万冊(原語は約40%)、雑誌約2,000誌(カレント約1,300誌)。うち日本分野の図書約12,000冊(和書が約60%)年間資料購入費は14,000eu、受入図書は約600冊で、カレント雑誌は約200誌。
・特徴:人文科学を中心に、全分野の日本資料を所蔵、自然科学分野の資料もあり(和算、地震等)。選書は教員・研究者による。学外者の利用も可能。
・目録:SBN未参加、ACNPは参加。目録システムはSEBINA(CJK・UNICODE未対応)、日本語書誌はローマ翻字(教員・院生による)、イタリア語で件名付与をしている。1992年からデータベース化、遡及入力はほぼ100%完了。NACSIS-CAT参加予定なし。

3.ローマ国立中央図書館 東洋コレクション
・1876年設立、母体はイエズス会の学校であるCollegio Romano内の図書館”Bibliotheca Maior”1975年に現在の建物に移転。法廷納本図書館であり、年間利用者は50万人以上。蔵書数は図書約600万冊、雑誌約45,000誌、写本約8,000冊、インキュナブラ約2,000冊、16世紀出版物約25,000冊。蔵書は人文科学分野中心でイタリア全土のマニュスクリプトのマイクロフィルムを一括保存している、国立マニュスクリプト研究センターが設置されている。
・東洋コレクション:アラビア・中国・日本・スラブの4部門、スタッフは1人で中国資料専門。
日本部門の蔵書は約4,000冊、内容は以下の三つの蔵書群で常時購入はしていない。
(1) 1876-1896年 Carl Valenciani教授(ローマ大学)からの 寄贈・譲渡を受入
(2) 1915年 約1,400冊を購入
(3) 1950年代末 Guido Perris氏蔵書を受入
書庫は温度湿度管理(15-20℃,40-50%)されて、縦置きで配架。図書の形態は帙入り / 箱詰め / ビニールカバー / 裸 / 洋装(革)といろいろあり、リクエストに応じて撮影・デジタル化・CD-ROMを作成。
・年間利用者は20-30人程度でイタリア語による日本研究書や翻訳書は別部署で所蔵している。
・目録:江戸明治期刊行日本語図書目録. Roma, Biblioteca Nazionale Centrale Vittorio Emanuele II, 1995,140p.(図書館情報大学(当時)の藤野幸雄氏が国際交流基金 の援助により整理)、漢和書精選. Roma, Bardi,1996,141p.

4.国際交流基金 ローマ日本文化会館図書館
・「国際文化交流事業を総合的かつ効率的に行うことにより、我が国に対する諸外国の理解を深め,国際相 互理解を増進し、及び文化その他の分野において世界に貢献し、もって良好な国際環境の整備並びに我が国 の調和ある対外関係の維持及び発展に寄与することを目的とする」(独立行政法人国際交流基金法第3条)
・主要事業:文化・芸術の交流事業を企画・支援する、海外における日本語教育をサポートする、海外における日本研究をサポートする
・ローマ日本文化会館:1962年開館(初の日本文化会館)、イタリアにおける日本文化理解の促進事業、文化事業(展覧会・映画会・講演会等の催し)、日本語教育関連事業・日本研究奨励・交流・広報・調査等
・図書室:スタッフは2人(日本語・イタリア語ともに可)。蔵書は図書約32,000冊(和19,500冊、英9,000冊、洋3,500冊)、雑誌約500誌。年間資料購入費は図書350万円、雑誌150万円、受入図書約600-700冊、カレント雑誌約200誌。
・主要分野:人文科学・社会科学 ・日本文学のイタリア語訳,日本文学・作家全集,歴史・ 宗教分野の史料、レファレンス資料等 ・イタリア語で書かれた日本関係図書 ・日本研究雑誌の書評に取り上げられた日本研究資料。
・特徴:年間入館者数は約6,000人(日本人が2割程度)、年間貸出冊数:約3,000冊(洋書7-8割)。貸出は利用者登録(有料・年会費10eu他)が必要。登録者数はイタリア全土に約5,000人で郵送貸出サービス(送料実費)あり。郵送複写サービスもあり、館内資料0.10eu/枚、国際交流基金(東京)図書館資料0.20eu/枚となっている。レファレンスは年間約1,000件受付。
・目録:SBN未参加、目録システムは独自開発DBで、WebOPACは2005年構築・提供開始。データの遡及入力(図書のみ)はほぼ完了。日本語で表示・検索が可能であり、書誌レコードは日本語とローマ字の両方で作成している。NACSIS-CAT参加予定なし

5.ローマ・ラ・サピエンツァ大学 東洋学科図書館
・1303年にローマ法王Boniface8世により設立、1870年に大学へ転向し1935年に現在の場所に移転している。学部数は21学部、教員数 約4,000人 学生数 約19,000人 ・東洋学科図書館:1905年創立、図書館スタッフ5人に学生アルバイト数名(日本語学科の学生もいる)。
・蔵書:全館で図書約125,000冊、雑誌約700誌。人文科学が中心で東アジアから中近東・アフリカまで所蔵。日本分野は図書約4,500冊(和書約半数)、カレント雑誌7誌。年間資料購入費は6,000eu
・特徴:閲覧室には雑誌のみで、図書は廊下の壁一面に天井の高さまである事務用書類ケースに入っていて、施錠されている。利用者はガラス越しに必要な図書をブラウジングし、求めに応じて図書館スタッフがその都度開錠。学生たちはローマ日本文化会館図書館を頻繁に利用している。
・目録:SBN、ACNP共に参加、館内システムはSEBINA(CJK・UNICODE未対応)、日本語書誌レコードはローマ翻字(教員による)。 データベース化は1998年から行っていて、遡及入力は半分ぐらい完了。

まとめ
・ローマ字併記の書誌データベースがいる:NACSISにはローマ字併記されていないのでイタリアの学生は早稲田大学のOPACを利用している。
・海外ILL受付は柔軟かつ手篤く:ILLの正規のルートではない依頼も多いのでこれでしか受け付けないという姿勢ではダメ。
・文化資源・学術資料としてのアニメ・マンガの収集 と保存を:国会に任せてしまうのではなく、真剣に考えなければいけないのでは。

質疑応答
Q:なぜイタリアに行ったのか?
A:2年前に日本研究のサポート状況を知りたかったためイギリス、アイルランド、オランダに行ってきたがそこは割とうまくいっている国ばかりだった。そこでもっと規模が小さくて研究者の少ない(しかし日本語の学習者は比して多い)所はどうなっているのか知りたかったため。

Q:カード目録は現在どうなっているのか?
A:続けているところもある。今回行ったところではナポリ東洋大学は更新していないが、提供はしていて、ローマ大学は更新、提供している。カード自体は見ていないが日本語で書かれているのではないか。

Q:目録はローマ字入力とあったが、イタリア人はローマ字は読めるのか?
A:もちろん読めます。

Q:早稲田大学のOPACはローマ字併記でイタリアの学生で使われているとあるが、目録データは具体的にはどうなっているのか?
A:漢字の下に読みとローマ字があり、項目すべてにもローマ字が振られている。

Q:ヴェネツィアは運河に囲まれ、高潮のときは浸水するので2F以上においているようだが、それでも湿気対策は必要だと思うが、何か対策はしているのか?
A:空気自体は乾燥しているからか、特別な対策はしていないようだ。本も傷んでいるようではない。

Q:国立中央図書館で和装本を洋装にしたと言っていたがちゃんと開くことはできるのか?
A:何冊か一緒にそのまま製本しているので背まで開いて読むことができる。

Q:国立図書館は突然行っても見学させてもらえるのか?
A: 予約なしでは入れてくれない所が多かった。見学だけの場合でもでもイギリス、オランダなどと違って断られた。



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