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学習会記録(第134回)

日時:2006年2月16日(木)
出席者:12名
内容:「スマトラ沖地震による津波で被災した文書の保存・修復作業について」
発表者:進藤 達郎(滋賀大学付属図書館)

2005年12月26日から翌2006年1月1日まで約一週間、独立行政法人国際協力機構(JICA)の被災文書保存・修復プロジェクトに参加した折の作業の概要、およびアチェ州を中心としたインドネシアの現況、その他現地の図書館等についての報告を受けた。

○津波被害文書の保存・修復作業
「バイタル・レコード(住民の生活にとって最低限必要な文書)」である土地台帳の救出と保全が目的。
インドネシア政府の要請により、JICAは2005年から継続的に人員を派遣している。
(現地では技術的支援と同時に、個人情報を扱うため第3者的立場の人間を必要としている)
特に被害の大きいアチェ州の土地台帳をインドネシア国立公文書館(ジャカルタ)まで運び、修復している。
・作業の流れ
@エタノール消毒
A冷凍(真空凍結乾燥機)
B乾燥
Cほこりをとる、くっついたページをはがす
 汚れ(おもに泥)を落とす(乾かしてから削り落とす)
 刷毛、へらを使用する。ページがはがれないときはエタノールを使う。
 破れた部分の補修(和紙をあてる)
  →日本から派遣された人員はCの過程に参加

*水による被害を受けた紙資料は、まず乾燥させる(発見された状態で救助し、無理にひきはがしたり傷をつけたりしない)。乾燥法にはいくつかあるが、アチェの資料については「真空凍結乾燥法」が用いられている。
 「真空凍結乾燥法」:1.可能なかぎりで資料を整形する。
           2.−40℃以下の状態で凍結する。
           (今回の作業では専用装置が準備されているが、家庭用冷凍庫でも可能
            アチェで修復の順番待ち状態の資料は、漁業用冷凍庫で保管されている)
           3.不織布に入れ、真空凍結乾燥機で真空状態にし、水分を昇華させる。

*作業での注意点、感想
・水を吸うと重量がでて資料がくずれやすい。インク印刷・ゴム印はあまりにじまないが、ペンで書かれた文字はけっこうにじむ。複数の用具で書かれている文書は、かなり修復しにくかった。
・現地の住民の感覚としては、感染症がかなり警戒されている。専門知識のある技術者が率先しなければなかなか作業が進まない。実際、泥などにはカビや雑菌が含まれている可能性があるため必要十分な注意をしなければならない。(作業中はマスク着用)修復された資料は、最終的には薫蒸や防カビ措置が必要。

○インドネシアの現状と図書館施設等の見学所感
 街並みは復興してきているが、各所に被害の痕跡がまだ見られる。海から何kmも離れた内陸部に、津波で流されてきた大型船もあった。海岸線が変化したところもある。新しい建築物を見かける一方で、被災者が生活するテントも多く残っている。冬でも凍死する心配はない(12月で28℃)が、そのことがテント生活を長引かせている要因のひとつになっているのかもしれない。

*アチェ州立図書館
・「アチェを読もう!」というスローガンで読書運動を展開中。州立図書館スタッフによると「インドネシア人はあまり本を読まない」。
・蔵書には大学の学位論文などもある。利用者の半分ほどは大学生で、リクエストも学術書が多い。図書館側としてはもっと一般の市民にも利用してほしいと思っている。
・移動図書館あり。
・インドネシアでは現在ライトノベルが流行中(内容は「イスラム的に正しい恋愛小説」など、日本とは文化の差異が感じられる)で、州立図書館でも人気のものは複本で購入しているのを見かけた。市町村図書館の支援のためのようだ。
・貸出はカードで、コンピュータ管理はされていない。
・津波で資料、スタッフが被害を受けた。蔵書数は被災前の約25%にまで減少。図書寄贈などの援助を必要としている。

*アチェ州立博物館
・オランダ植民地時代に開館。
・亜熱帯では、写真資料は色あせるなどして劣化が早い。
・資料の展示・保存は割合に雑で心配。
・建物は高床式(2階くらいの高さ)。昔からこの様式の建築が多い(湿気よけ?)。

*インドネシア国立図書館
・荷物はロッカーに預けて入館。
・DDCによるカード目録。
・製本機は日本製のものがあった(援助?)。

[参考資料]
坂本勇「インド洋大津波による図書館、文書館被害と今後の課題」カレントアウェアネスNo.286(CA1570) 2005
http://www.ndl.go.jp/jp/library/current/no286/CA1570.html
全国歴史資料保存利用機関連絡協議会「文書館防災対策の手引き」
http://www.jsai.jp/file/bosaitebiki.html

Q&A
Q.今回の参加費用はどこが負担しているのか?
A.すべて自己負担だった。

Q.インドネシア語は必要であったのでは?
A.おもに英語で会話していたので、インドネシア語は特に必要なかった。

Q.土地台帳の用紙はどんな種類が使われていたのか?
A.材質はわからないが、割合に分厚くて丈夫な紙だった。だから泥水の中でも残ったのかもしれない。泥を削り取る作業でも破れるような心配はあまりなかった。

Q.修復作業はいつ完了したのか?
A.今も続けられている。作業専用の真空凍結乾燥機は昨年の11月に入ったばかりなので、むしろ今から次々と、修復待ちの資料についての作業が進められていくだろう。
 電子化保存の計画もあるが、図表等のデジタル化で技術的に疑問な資料もある。
 また、失われた部分の土地台帳の情報をどう補っていくかという問題もある。



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