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学習会記録(第133回)

日時:2006年1月19日(木)
出席者:6名
内容:「江戸時代庶民の数学2」
発表者:藤原 直幸(京都府立総合資料館)

発表者の勤務する京都府立総合資料館所蔵の資料を紹介しながら、和算(日本の数学)の継承、発展の歴史を紹介する。

○ 前回(「江戸時代庶民の数学1」)のおさらい
 ・飛鳥時代の算数の発祥
 ・そろばんの輸入
 ・江戸時代初期の和算の始まり
 ・江戸時代の代表的な和算書『塵劫記』(吉田光由著)
 ・算木の紹介
○ 『塵劫記』後の流れ
 『塵劫記』以降、遺題(解答のない問題)を継承していくスタイルが続くようになった。
 ・『算法闕疑抄(さんぽうけつぎしょう)』磯村吉徳著
   初版:寛文元(1661)年  京都府立総合資料館所蔵の資料は貞享元(1684)年刊の『増補算法闕疑抄』か?
   ●当時人気のあった和算書(塵劫記の遺題を解き、新たに遺題を載せている。)
 ・『具應算法』三宅賢隆著
   初版:元禄12(1699)年  資料館蔵の資料は宝暦9(1759)年改版
   ●人気があり、改刻が多い。(これも以前の遺題を解き、新たに遺題を百問載せている。)
 ・『改算記綱目』持永豊次 大橋宅清 宮城清行著
   初版:貞享4(1687)年  資料館蔵の資料は題簽は異なるが初版
   ●著者は速成教育で有名になった京都在住の数学者。
 ・『七乗冪演式(しちじょうべきえんしき) 』中根元圭著
   初版:元禄4(1691年)  資料館蔵の資料は初版
 ・『括要算法』関孝和著
   初版:宝永6(1709)年  資料館蔵の資料は初版
   ●関孝和の死後、弟子たちにより編集されたもの。
  ☆関孝和は江戸時代の日本を代表する数学者。
   数学の才能が知られ、甲府の勘定奉行となった。
   沢口一之編『古今算法記』の問題(→遺題)に答える形で『発微算法』を発行し、この中で東洋初の筆算代数式である傍書法を発明した。
   以後この方法は和算の中心的手法となった。
   関孝和の生み出した理論は、建部賢弘らの弟子達、さらに後の数学者に引き継がれていった。
   和算が普及、発展するなかで、いくつものグループが発生した。関孝和やその弟子たちは「関流」と名乗るようになり、優れた数学者を輩出した。
 ・『和漢算法大成』宮城清行著
   初版:元禄8(1695)年  資料館蔵の資料は明和元(1764)年再刻のもの
   (中国と日本の算法を解説したもの)
 ・『籌算指南(ちゅうさんしなん)』千野乾弘著
   初版:明和4(1767)年  資料館蔵の資料は初版のものと思われる
 ・『捨(王+幾)(しゅうき)算法』豊田文景(久留米藩主有馬頼僮の変名)著
   初版:明和4(1767)年  資料館蔵の資料は天保4(1833)年再刻のものか?
   ●著者の有馬頼僮は16歳で久留米藩主となった人物で、関流の山路主住を師として奥義を学んだ。
 ・『算法学海』坂正永著    初版:天明元(1781)年  資料館蔵の資料は初版
 ・『精要算法』藤田貞資著
   初版:安永8(1779)年  資料館蔵の資料は初版
   ●上中下の三巻からなり、上中巻で関流の秘術をわかりやすく解説し、下巻で斬新な問題を精選してまとめて問いと解のみ載せた。
   このため以後の和算家の腕試しとして重宝され、多数の解説書が刊行されている。
 ・『算法童子問』村井中漸著
   初版:天明4(1781)年  資料館蔵の資料は初版
   ●初心者にも分かり易いよう身近な例を使った問題が収められている。
 ・『神壁算法』藤田嘉言著
   初版:寛政元(1789)年  資料館蔵の資料は寛政8(1796)年増刻のもの(国書総目録による)    ●算額を集めて紹介した初めての書    ☆算額とは、数学の問題・解答を板に書いて神社に奉掲したもの。
    和算家による奉納もあり、公開討論会場としての一面も見られた。
    算額がもとで大論争が起きたことも。
 ・『解惑辮誤』神谷定令著
   初版:寛政2(1790)年  資料館の資料は寛政8(1796)年増刻のもの
   ●会田安明著『解惑算法』を非難するために書かれたもの。
   神谷の師である藤田貞資と会田安明の間では、20年にも及ぶ論争が繰り広げられた。    しかしこの論争は一般の人々に和算への興味を持たせる契機にもなった。
 ・『匂股至近集』若杉多十朗著
   初版:享保4(1719)年  資料館の資料は寛政11(1799)年の再訂本
 ・『精要算法起源』会田安明著
   刊年不明
 ・『精要算法解義』著者不明
   刊年不明

○まとめ
 ・和算は『塵劫記』以降も高度に発展した。
 ・内容は、独創的な研究が減り、手法の改良や教育の面が目立っていく。
 ・結局、西洋数学のような系統だった発展は見られなかった。

○参考文献
『明治前日本数学史』日本学士院日本科学史刊行会 岩波書店
『増修日本数学史』遠藤利貞 恒星社厚生閣
『和算用語集』佐藤健一 研成社
『和算史年表』佐藤健一ほか 東洋書店
『算木を超えた男』王青翔 東洋書店
『「数」の日本史』伊達宗行 日本経済社
『新・和算入門』佐藤健一 研成社

Q&A
Q総合資料館所蔵の和算資料を見に来る利用者は多いか?
A現在のところ、和算資料を目的に来館する利用者はほとんどいない。
 資料館所蔵の和算関連の資料は60冊ほどで少ないほうである。
 日本学士院、東北大学(600〜700冊所蔵)の資料が充実しており、研究者はそちらへ行くのではないか。

Q京都市内で和算資料を多く所蔵しているのは?
A京都大学では和算関連の展覧会も開催しており、多く所蔵しているようである。

Q今回紹介した和算資料は総合資料館独自の資料だったのか?
A紹介した資料は江戸時代の代表的な和算書であり、他の館でも多く所蔵している。

Q今回紹介した資料の選択基準は?
A総合資料館の資料として「和算」で分類入力されているものを検索し、代表的なものを紹介した。

Q和算書の内容は難解?また載っている問題を解いてみたか?
A大学院で数学を 研究した発表者から見ても難解である。
 和算の用語集を活用しなければ理解できない。
 問題もかなりレベルが高く、現代の数学を研究している人が挑戦しても、すぐには解けないのではないか。

Q関孝和は世界的にも有名か?
A東洋で初めて代数学を編み出すなどの業績もあり、世界的にはどうか解らないが、アジア圏では有名ではないか。

Q江戸時代の和算家のくらしは?
A当時、現在の大学教授や塾の講師のような和算を教えることで生計を立てている人はあまりいなかった。プロとして暮らしている人は暦学、天文学、建築学などの実用的な方面での役人として登用されることが多かった。

Q和算は明治以降なぜ発展しなかったのか?
A和算は個々の問題に対しての解法を求めていくスタイルであったため、西洋数学のように体系的に積み上げられていくような発展が見られなかった。

Q和算は大学等で研究されている?
A大学等で専門的に和算を研究する人は少ない。
 和算の研究家はほとんどがアマチュア(高校の先生など)である。



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