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学習会記録(第130回)

日時:2005年9月15日(木)
出席者:11名
内容:「NDLの科学技術資料費と洋雑誌タイトルの変遷」
発表者:山下 ユミ(国立国会図書館関西館)

1.はじめに
 国立国会図書館では科学技術資料、その中でも特に洋雑誌にかなりの予算を使い、系統だった収集をしている。しかしその事実はあまり一般に知られていない。国会図書館の資料をより有効に使ってもらうため、科学技術資料収集についての歴史と洋雑誌タイトル数の変遷を中心に報告したい。また、京都府立医大図書館所蔵洋雑誌とのタイトル比較を試みた。

2.NDLの予算の中での科学技術費(図書館資料購入費・納本代償金・科学技術資料費)
・17年度当初予算 資料購入費は約23億5,713万円
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/outline_03finances.html#organization
・そのおもな内訳
 図書館資料購入費:約9億3千万(NDLができる前に出版された資料の収集費
  ex.明治〜昭和前期の図書・雑誌、旧植民地資料、なら絵本、浮世絵)
 納本代償金:約3億9千万円(納本図書の代価として半額程度を支払う)
 科学技術資料費:約9億7千万(科学技術にかかわる外国雑誌、電子ジャーナル、データベース、外国語の会議録、テクニカルレポート等の購入費)
・納本出版物代償費と科学技術資料費は国の歳費ではなく、国家予算の別の場所から出ている。

3.NDLの科学技術資料費と洋雑誌タイトルの変遷
・科学技術情報・・科学技術の研究あるいは開発の過程で生じる情報。雑誌論文、テクニカルレポート、学会等での発表資料、学位論文、特許資料、データ資料等をいい、自然科学、工学、医学、農学分野のほかに、社会科学の分野で科学技術に関連あるものも含む。
・「PBレポート」「原子力資料」「洋雑誌」がNDLの科学技術資料の3本柱
・科学技術資料収集の歴史
 昭和27(1952)年のPBレポート購入予算に始まる
  昭和27年度の補正予算で7,000万円(当時の予算の16%)
 ☆PBレポートとは
  テクニカルレポートの一種。
  1945年米国で商務省内に設立された出版局(Public Board)から出されたのでPBレポ  ートという。米国政府によって行われた研究開発の成果のうち国の安全保障上問題  ないものを公開したもの。また、敵国から得られた科学技術情報の公開も行った。
 昭和28(1953)年から、原子力資料の収集計画を進める
 昭和29(1954)年に、予算修正案として科学振興関係費用3億円が増額
  原子力資料収集費3,000万円が計上され、AECリポートの収集を開始
   AECリポート・・原子力平和利用の立場から、アメリカ政府が各国に寄託した報告書
 ☆洋雑誌の収集は、原子力資料収集計画に含まれた250タイトル始まった
  →原子力以外に分野を広げて科学技術資料の最大の柱に
 昭和29(1954)〜33(1958)年 科学図書館設立構想
  日本科学技術情報センター(JICST)の設立
 昭和36(1961)年 科学技術関係資料整備3ヵ年計画
  計画前の外国雑誌の所蔵数が3,000タイトル→3年で7,000タイトルを選書・発注
  しかし、毎年予算は少しずつ増えるが、資料の値上がりに苦しむ
 昭和47(1972)年 オイルショック
  資料の値上がりは特に著しく、継続資料の維持が不可能に
  予算不足に見合うレポートや雑誌を打ち切る→昭和53(1978)年には5,000タイトルに
 昭和昭和53(1978)年 科学技術関係資料整備審議会答申
  British Library(雑誌45,000タイトル)を目標に立直しをはかる
  53年度補正予算(約5億4千万円)、54年度予算(約4億円)
 昭和58(1983)年 13,000タイトルに
 1990年代 外国雑誌の支出が資料費全体の70%を超える
  抄録誌や臨床系医学雑誌、業界誌、ニュース誌を打ち切り
 平成9(1997)〜10(1998)年 さらに利用の少ない雑誌を打ち切り
・PBレポート収集の背景
 昭和20年代の日本の科学技術の水準は欧米と比べてかなり遅れていた。民間の化学薬品会社が互いに情報獲得にしのぎを削る中で、PBレポートの存在が徐々に知られるようになり、PBレポートをNDLが購入するために必要な措置を取るよう要望がおこり、予算獲得への運動が行われた。
 PBレポートは、昭和32年には5,145件18万ページ、昭和33年には5,437件で17万ページ、昭和34年には7,691件、26万ページの複写利用があったという。またその利用者の94%は、民間企業だった。

4.京都府立医科大学とのタイトル比較
・Urich's Seruials Analysis System
 ISSNで所蔵雑誌の情報を取り出し、インパクトファクターの有無、電子ジャーナルの有無、価格を一覧できる。分野ごとの比較も可能。
 NDLのOPACにはダウンロードの機能あり。NDLC番号で抽出できる。
・Urichシステムを用い、NDLと京都府立医科大学の所蔵雑誌タイトルを比較した。府立医科大の所蔵洋雑誌数は全2643タイトルで、そのうちカレントは196タイトル。NDLのカレント9366タイトルとともにどの分野が多いかをみると、Biology(府立50タイトル、NDL1223タイトル)とMedical Sciences(府立130タイトル、NDL1513タイトル)とであった。またNDLになく府立医大にのみあるタイトルは25あった。

Q&A
Q.ナチスのユダヤ人実験の記録がアメリカに持ってかえられたと聞いた気がするが、それはPBレポートとは別のものだろうか?
A.そういったものもあったかもしれない。ドイツなど敗戦国側は、研究結果を奪われまいとトンネルに埋めたり壁に塗り込んだりして隠そうとしていたようだ。

Q.1990年代に打ち切られた雑誌の中で臨床系医学雑誌があったと先ほど伺ったが、なぜ臨床系を切るのか?
A.国立で特に積極的に集めるべきものではないという考えが伝統的にあるようだ。今も臨床系にはそれほど熱心ではない感じがする。打ち切る観点は、過度に専門的かどうかで判断し、他に所蔵がないからという観点からはあまり見られない。
(*参加者からの意見)その頃阪大が医学系雑誌収集の拠点館となったが、それが何か関係しているかもしれない。阪大では全国で所蔵館の少ない雑誌を収集するようにしている。

Q.NDL所蔵のデータベースは無料で利用できるのか?
A.無料で利用できるデータベースもあるが、直接来館者のみへのサービス。ただ、本館では利用がたくさんあるが、関西館ではあまりない。検索結果はお金はかかるがコピーできる。フロッピーは不可。遠隔地への複写送付は不可。



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