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学習会記録(第125回)

日時:2005年2月17日(木)
出席者:10名
内容:「よくわかる『図書館の興亡』−古代アレクサンドリアから現代まで−」
発表者:若林 正博(京都南府税事務所)

2004年11月に日本語訳が出版された『図書館の興亡』について、地図や関連図書を提示しながら、教材提示装置を使用して、各章の歴史背景、宗教的背景の解説が行われた。

1.アレクサンドリアと図書館
・プトレマイオス朝の庇護のもと図書館は発展
・度重なる歴史上の危機に加え、紀元前のプトレマイオス朝、ローマ時代の資料はアラブ人支配下ではその理解者が不在となり散逸に拍車がかかった。
・アレクサンドリアの図書館は特定の事件で焼失したのではない。
・千数百年間に起きた様々な事件により徐々に崩壊していったと考えるのが妥当。
・誰か一人を破壊者として特定するのは後世の誇張。
・図書館の遺蹟はカノポス街道沿いが確実視されているが、未だに遺構は発掘されず。

2.人類初の図書館 => アッシリアの図書館
・アッシリアはオリエントの覇者。

3.東洋の事情
・史記・・司馬遷の記述で出てきた将軍は李陵のことである。
・始皇帝、司馬遷と拓本の内容程度しか東洋については紹介なし。
・本書とは直接関係無いが、日本における歴史破棄の事例を紹介。

4.アステカの絵文書 =>メソアメリカの事情

5.ギリシアの神々について
・本書には比喩の材料としてギリシアの神々がさりげなく登場。
・ギリシア神話を大まかに理解した方が内容を理解しやすい。
・パルナッソス山…ゼウスがクロノスから覇権を奪取した山。
 パルナッソッス山の石とは、ゼウスの戦勝記念碑のようなもの。
・プロメテウスの苦しみ…プロメテウスは人類に火を授けたことがゼウスの逆鱗に触れ、縛り付けられた。ハゲタカに肝臓を突付かれるという罰を受けたが、プロメテウスは不死身だったので、翌日には体が再生し、毎日同じ苦しみを受ける。このサイクルを繰り返す苦しみが「プロメテウスの苦しみ」である。
・アポロ…音楽の神。予言の能力にも長けた神。

6.キリスト教について
<キリスト教の成立>
・ユダヤ教は、救世主がユダヤ民族を救うという選民思想。
・当時の苦難はローマの圧政であり、救世主(メシア)が待望されていた。
・イエスの教えはユダヤ人だけでなく全ての人が神によって救われる。
・イエスは教義を惑わす者として、冤罪でローマ総督に引き渡し十字架刑に。
・キリスト教は帝国の政策と相反したため、ローマ帝国に迫害された。
・313年 コンスタンティヌス帝がミラノ勅令によりキリスト教を公認。
・325年 ニケーア公会議 アタナシウス派の三位一体説を正統な教義とする。
 三位一体=父なる神、子なるイエス、聖霊の3者は等質で不可分。
・4世紀後半 テオドシウス帝がキリスト教を国教に。他の全宗教を禁止。 ・帝国の書物も神学優位、古典軽視の時代へ
・旧約聖書はユダヤ教と共通。
・キリスト誕生以降の伝道を教典化したものが新約聖書

<ローマ帝国の崩壊と教会権力の強化>
・東西ローマ帝国への分裂
・西ローマ帝国は滅びるが、教会権威としてローマ教皇は残る。西欧に影響力
・東ローマ帝国は政教一体で15世紀まで存続。東欧に影響力⇒ギリシア正教会
・神学以外の学問の地位低下。
・東方のペルシアへの学問流出。

<十字軍からルネッサンス>
・十字軍(第1回は1099年)による聖地イスラエルへの遠征
 エルサレムは400年以上前の638年にイスラム帝国の版図に。
 イスラムのカリフ(指導者)自らエルサレムに赴き、現地のキリスト教徒の安全を保障。
・200年間で7回の十字軍の結果、その担い手であった諸侯、商人の地位が向上。
・十字軍が無活動の時代は商業交流があり、イタリア各都市は繁栄。
・オスマントルコが東ローマ帝国を滅ぼすと学者がイタリア方面へ亡命。
・イタリア諸都市の興隆、学者のイタリアへの亡命、教会の神学的束縛の緩和により、ギリシア・ローマの学問・学芸が見直され復興。=ルネッサンス

<イエズス会と宗教改革>
・イベリア半島をイスラム教徒から奪回。
・ドイツでルターの宗教改革 ⇒ プロテスタント
・ローマ教会側もイエズス会の活動など ⇒ ローマカトリック

7.イスラム世界の歴史について
<イスラム帝国の系譜>
・別添の年表により解説。
・十字軍との関係についても言及。

8.第三章までの書物の流れ
<時代別の整理>
・紀元前 アレクサンドリアの繁栄
……プトレマイオス朝の庇護でアレクサンドリアに文物集積。
・1世紀頃 アレクサンドリアを擁するエジプトの滅亡
……ローマ帝国が庇護。
・4世紀頃 ローマ帝国の衰退(東西ローマ分割など)
……行先の模索の時代
西欧の指導的地位にたった各地の教会は神学ほど古典には関心示さず。
・7世紀頃 イスラム帝国の興隆
……知の館に代表されるイスラム帝国による庇護
・12世紀頃 イスラムの流動化(十字軍の侵入、イスラム世界の分裂)
……コルドヴァあたりの市から欧州への流出。
       十字軍の略奪による欧州への流出。
       戦費調達のための換金。
・15世紀頃 ルネッサンス
……フィレンチェ、ヴァチカンへの再集積。
       イスラムから個々に流出していた書物が書物商を介して富豪の下に集積。

9.ルネッサンス期人間関係
<相関図>
 ウルビーノ公フェデリーゴ フェデリーゴの図書館
(取引)
 ヴェスパシーノ(書物商)=(取引)=コジモ.デ.メディチ=(友人)=ニッコロ・ニッコリーノ
    (取引)         サンロレンツォ図書館     サンマルコ図書館
 ニコラウス5世
   (後継者) ヴァチカン図書館
 シクストゥス4世

10.19世紀以降の内容について
<書物合戦>
・『書物合戦』とは、『ガリバー旅行記』の作者でもあるJ.スゥイフトの作品
・正式な訳名
『先週金曜日セント・ジェイムズ図書館において古代派と近代派のあいだで戦われた合戦の完全にして真実なる物語』
・書架での書物の場所取りが、著者同士、例えばアリストテレスやベーコンが戦うという風刺物語

<スゥイフトをめぐる人物相関図>
 W.テンプル(1628-1699)政治家        R.ベントリー(1662-1742)古典学者
     |     ←「ファラリス書簡集」贋作→        |
    伯父・甥                        子弟関係
     | 「書物合戦」風刺             批判    |
 J.スゥイフト(1667-1745)秘書              W.ウォットン
  <19世紀以降の図書館>
・スゥイフトの時代に比べ、印刷技術の発達により書物の量が爆発的に増加。
・利用者の階層が広がった。
・収納場所を議論する時代から、いかに大量の書物を体系的に収納し、利用者に提供するかということが課題になってきた様子が書かれている。

<ルーヴェン図書館の悲運>
・ベルギールーヴェン図書館と二度の大戦



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