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学習会記録(第124回)

日時:2005年1月21日(木)
出席者:9名
内容:「国際子ども図書館児童文学講座"ファンタジーの誕生と発展"受講報告」
発表者:是住 久美子(京都府立図書館)

前回の補足:発表者から前回の発表の中で『割算書』が現存最古の和算書と紹介したが、龍谷大学所蔵の『算用記』が現存最古の和算書であるという訂正があった。

昨年10月18日〜20日に国際子ども図書館であった研修についての報告をされた。

研修の総合テーマ:「ファンタジーの誕生と発展」

「ファンタジー概論」 神宮輝夫
・「ファンタジーは、既定の事実を変えること、つまり、現実の変更、退屈からの脱却、遊び、ヴィジョン、欠けているものに対するあこがれ、読者の言葉の砦を通り抜けてしまう比喩的イメージである。」ヒューム
・ファンタジー文学の分類の例
  昔話や伝承のフェアリーテイル、擬人化されたお人形や玩具の話し、魔法の冒険物語etc・・・
・ファンタジーと現実(リアリズム)の関係
  すぐれたリアリズムが良いファンタジーを生み出した。

「メルヘンからファンタジーへ」 間宮史子
メルヘン(≒昔話、口承のおとぎ話)はファンタジーの源
 主人公は様々な異界(非日常世界)を訪れる。  異界との境界線は川、井戸、門など。ほとんどの主人公は異界から戻ってくる。
・地上(地続き)の異界(何日か歩いた森の中に異界がある)
 『白雪姫』では肯定的イメージ(7人の小人)、『ヘンゼルとグレーテル』では否定的イメージ(魔女の家)
・地下の異界
 『ホレばあさん』は肯定、否定両面を持つ。正しい反応をする人間には報いるが、間違った人間は罰する(日本の「隣の爺型」と類似)。ヨーロッパでは姉妹が多く、日本は隣人、韓国では兄弟の場合が多い。
・日本の昔話では主人公のそばに異界があり、山の中が多い。

「イギリスのファンタジー」 定松正
・文字化された物語と再話者たち
『グリム』(口承で伝わってきた昔話を文字化)『アンデルセン』(創作した話)
・ファンタジー文学の形式
 ・ハイ・ファンタジー
細部まで創作された別世界ですべてのストーリーが展開する。長編作品、英雄ものが多い。例:『ゲド戦記』『指輪物語』
 ・ロー・ファンタジー
 現実世界を舞台として不思議な事や超常現象が起こる。
・ファンタジー文学の諸相
 現実からの脱出志向
 現実の世界から別世界へ「あるトンネル」を通って入っていくという手法へ

「アメリカのファンタジー」 白井澄子
・ファンタジーの育ちにくい背景
 空想や娯楽を排除する初期のピューリタン的伝統、アメリカ自体が夢の国。実利的な生き方が奨励される。
 →アメリカのファンタジーの源流は「法螺話(ホールテイル)」
・アメリカのファンタジーの特徴
 ・全て種がある。メッセージ性が強い。イギリスのファンタジーと違い、キリスト教と関わった作品が少ない。

「ファンタジーとは何か」 井辻朱美
・ファンタジーとは@昔話、おとぎ話を元にしたもの。A歴史小説を代行するものB枠物語(枠の中で魔法を行使する)
17世紀 ユートピア旅行記 (どこかに別世界があるという思い):『別世界または日月両世界の諸国諸帝国』
18世紀 ゴシックロマンス(理性の世紀の裏面)フィクションの成立:『オトラント城綺譚』
19世紀 ロマン主義とメルヘン復権(国家のアイデンティティ→昔話の掘り起こし):『黄金の川の王様』(英国における妖精物語復興の最初の作品)
    遺跡の発掘、博物館の存在が地底探検・洞窟探検物語の出現:『海底2万里』
    地底の発見→時間(地層)の発見→タイムファンタジーの出現:『タイムマシン』
20世紀 20世紀初めは児童文学黄金時代(ただし子ども部屋限定):『ニルスのふしぎな旅』
1937年 子ども部屋限定から大人も参加してよいファンタジーへ:『ホビットの冒険』
1979年 メッセージ性の強いファンタジーが登場:『はてしない物語』
1990年代後半〜 ネオ・ファンタジーの時代(昔話の構造パターンを換骨奪胎した神話的類型物語。最近のは主人公に最初から力があるのが特徴。)

国際子ども図書館の蔵書について
蔵書数約30万冊(図書23万冊、逐次刊行物1700タイトル、非図書資料3万点)
国内の児童書は納本制度により、網羅的に収集、海外の児童書は選択購入、寄贈、国際交換により収集。(日本で翻訳された図書の原書の収集に力を入れている。)
児童書の定義:高校生(18歳)以下の児童と生徒を対象として出版された図書

児童書総合目録(http://www.kodomo.go.jp/function/somoku.html)について
国際子ども図書館、国立国会図書館のほか、大阪児童文学館、神奈川県立近代文学館、東京都立多摩図書館など6機関の所蔵する児童書、児童関連書を検索できる総合目録
平成17年度には白百合女子大学児童文化研修センターが参加予定。
検索のコツ
あらすじ:日本図書協会発行『選定図書総目録』所収の「児童図書」に関わる解説データ(1950〜)から検索できる。
賞名、受賞年:『日本の児童図書賞』所収の受賞情報から検索できる。“コルデット賞”、“ニューベリー賞”など外国の受賞情報も検索できる。

Q&A
Q:翻訳された本で原作者が省略されている場合、書誌データでは責任表示はどうとるのか?
A:基本的には奥付の著者表示を見て、責任表示を決めている。また表示していなくても図書のほかの部分から明らかに推定できる場合は括弧付で著者として記述する。

Q:古い時代に成立した話は色々改変されているのではないか?
A:たしかに最近、ディズニーの「シンデレラ」や「白雪姫」の話はもともとの童話とは違っている。

Q:館内見学の際の印象は?
A:見学した時は閉館日だったので利用者はいなかった。他の研修日に見た感じでは子どもより大人が多い印象だった。(国際子ども図書館は1階は年齢制限はないが、2階の資料室は18歳以上の年齢制限がある。)

Q:国際子ども図書館の児童書総合目録の検索項目で「禁止」の項目があるが、どういう意味か?
A:いまはその項目は使用できないので意味はわからない。

Q:同じく「選定年」の項目があるが誰が決めているのか。
A:JLAの『選定図書目録』が毎年出ているのでここからデータを取っているのではないか。

Q:府立図書館では最近のファンタジーは入っているのか?
A:全てというわけではないが、『ハリーポッター』や『バーティミアス』など一般書で入ってきているものもある。

Q:受講者はどんな人たちだったか?
A:長年児童サービスを担当している人が多かった。都道府県立図書館の人が多かったが、地域文庫で働いている人もいた。地域としては新潟から四国まで幅広く参加していた。



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