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学習会記録(第121回)

日時:2004年10月21日(木)
出席者:12名
内容:「よーろっぱ日記:欧州日本語資料図書館見学旅行の報告」
発表者:江上 敏哲(京都大学附属図書館)

京都大学教育研究振興財団助成事業の海外派遣助成により派遣されたヨーロッパの日本語資料図書館見学旅行の内容が報告された。

期間:2004年9月11日(土)〜26日(日)

1.オックスフォード大学 ボードリアン日本図書館
<概要>
・1993年開館
・所蔵図書   104,000冊(うち欧文20,000冊)
・年間受入冊数 3,700冊
・雑誌     和509誌+洋129誌
・年間購入金額 約80,000ポンド
    (1ポンドは約195円。80,000ポンド≒1560万円)

<組織>
・ボードリアン日本図書館は、Bodleian Libraryの一分館。
 Bodleian Libraryは、本館のほかに、9の分館を持つ。
・Department of Oriental Collectionsの中の一つでもある。
・日本語資料図書館は、複雑に入り組んだ組織の中に散在しているがボードリアン日本図書館は、その中核をなす図書館。

<目録>
・Allegro:日本語資料の目録データベース(NC登録)
 日本語のレファレンスコレクション
 日本語の貸出コレクション
・OLIS:全学の目録データベース
 欧米言語のレファレンスコレクション
 欧米言語の貸出コレクション
 日本語の貸出コレクション
・日本語の貸出コレクションは、2つのデータベースに登録している。
 Allegroは日本語での登録とNC登録が可能であるが、貸出ができない。
 利用に供するためにローマ字でOLISに登録している。

<資料>
・嵯峨本3点「やたてかも」「じねんこじ」「やしま」を所蔵。  イギリスの大学図書館ではおそらく最古の日本語書籍と考えられている。

2.ロンドン大学 SOAS図書館日本韓国セクション
<概要>
・1974年開館
・所蔵図書   約115,000冊(うち欧文20,000冊)
・年間受入冊数 1,500冊
・雑誌     532タイトル(カレント和雑誌180タイトル)
・年間購入金額 約36,000ポンド(日韓合計 約700万円)

<地域研究>
・ロンドン大学のThe School of Oriental and African Studiesは1916年に創立。地域研究で大変有名。
・3,500人の学生のうち、約30%がヨーロッパ以外からの留学生。
・卒業の条件の一つとして、研究している地域に留学しなければならない。

<外部からの利用者>
・ヨーロッパにおける地域研究の拠点である。
・学外者の利用のために、無料や有料で、いくつかのメンバーシップが用意されている。
・日本に来るよりも手っ取り早く資料がそろうという面もあるとのこと。

<古典籍の利用と目録>
・日本語資料の目録が用意されている。
 A descriptive catalogue of the pre-1868 Japanese books, manuscripts, and prints in the Library of the School of Oriental and African Studies
・上記を訳したもの(ロンドン大学東洋アフリカ校所蔵日本古典籍善本解題並びに目録/林望,東横国文学, 18, p119-197, 1986)があるために、日本 からの訪問利用者も大変多い。

3.大英図書館 日本セクション
<概要>
・British LibraryのDepartment of Asia, Pacific & Africa Collections
・1973年 British Library設立。
・所蔵図書 70,000〜75,000冊(日本語で書かれた資料のみ)
・雑誌 10,500タイトル(カレント雑誌2,000タイトル)
・年間受入冊数 900冊
・年間購入金額 約33000ポンド(≒644万円)
・国会図書館のような納本図書館のうちの一つ。行政刊行物の交換制度なども利用して資料を集めている。

<古典籍資料>
・3,500点以上
・古典籍資料目的の利用者が圧倒的に多い
・本の形に綴じられたものは大英図書館。一枚ものは、大英博物館に所蔵して いる。
・慶応大学HUMIプロジェクト「世界のデジタル奈良絵本」へ協力

4.チェスター・ビーティー・ライブラリー 東アジアコレクション
<概要>
・アイルランド・ダブリンにある美術館。Alfred Chester Beaty卿(1875-1968)の収集資料を展示
・パピルス資料、キリスト教・イスラム教・仏教資料、中東・インド・東アジアの古典籍など
・1954年 ダブリン郊外に開館
・1989年 Alfred Chester Beaty卿の死後、国に寄贈
・2000年 ダブリン市中心部へ移転
・1999年に6,000人だった入館者数が、移転後増加し、2003年は15万人
・入館無料

<日本資料>
・絵入本(奈良絵本)・絵巻物約120点
・浮世絵450点、摺物700点
・百万塔陀羅尼(8世紀)
・奈良絵本は、海外コレクションとしてはBL、NYPLと並ぶ

<環境・保存活動>
・ギャラリーは、温度18-21℃、湿度45-55%に保持している。
 保管庫は、温度16℃、湿度50%。
・紫外線・熱をカットするガラスを使用
・展示用の書見台は資料の開き具合等に合わせてオーダーメイド
・保管庫内では箱詰め、空気清浄機、捕虫器
・資料を保管しているビルと事務用のビルを隔離。
・火災感知時には、必要な場所だけにスプリンクラーを稼動できる

<スタッフ>
・East Asian Curator 1人、アシスタント1人(Curator=学芸員)
 韓国語も中国語も同じスタッフが整理している
・Reference Librarian 1人
・Conservation Manager 1人 (外部に非常勤の専門スタッフあり)

5.ライデン大学 日本韓国学科図書館
<概要>
・オランダ・ライデン Center for Japanese Studies, Leiden University
・オランダで唯一、正規の日本学教育が受けられる
・ヨーロッパでも屈指の日本研究・日本学教育の拠点
・日本語・日本学を学ぶ学生 約200人
・同教育・研究者 24人
・所蔵図書 約35,400冊(うち欧文7,100冊)
・年間受入冊数 約700冊
・製本雑誌 1,163冊、カレント雑誌 280タイトル
・年間資料購入額 22,000ユーロ(日韓合計)75%は雑誌購入
 (1ユーロは約137円。22,000ユーロ≒300万円)
・予算は中央図書館から
・基金等による不定期な資料購入または寄贈
・日本セクション専任 1人(受入・目録・サービス等) ・中国学科図書館は中央図書館から独立。予算は文学部から。
 蔵書は日韓のほぼ10倍規模。年間受入冊数は4,000-5,000冊。

<資料>
・雑誌・逐次刊行物
・朝日・日経新聞(国際欧州版)
・日本からの寄贈(紀要・機関誌・行政刊行物)
・日本古典籍資料は、ほとんどがオランダ国立民俗学博物館かライデン大学附属図書館に所蔵している。
・日本人留学生や駐在員からの寄贈による日本語一般図書

<相互協力>
・ILLが未整備
・各国日本資料図書館のオンライン目録が未整備
・それらを解決すべき協力体制が未整備

<目録>
・全学目録データベースシステム(PICA)1バイト文字しか使えないので日本語入力不可。現在はローマ字で登録。
NipponDataaseを独自形成しているが、未提供。
・近々行われる予定のシステム更新後は、日本語入力・NC登録も可能になるのでは。
・カード目録、古典籍を中心とした冊子体目録がある。

6.EAJRS(日本資料専門家欧州教会 年次集会)
・European Association of Japanese Resource Specialists
・ヨーロッパの日本研究者及び図書館司書等の集まり
 情報交換・研究発表・ネットワーク形成を目的とする
・1989年創設
・2004年度年次集会9月22日-9月25日
 スペイン サラマンカ大学スペイン日本文化センター
 テーマ「スペインと日本」 参加約50人 発表30件
 アメリカ・日本からの参加も全体の約3割
・京都大学の貴重書データベースについて発表を行った

Q&A
Q.ロンドン大学やBLでは、日本とアフリカが同じセクションになっているようだが。
A.オリエンタル・パシフィック・アフリカの部屋の一部が日本になっているということはよくある。日本と韓国のセクションが同じということは大変多い。

Q.日本人のスタッフがいたのか?
A.5館のうち3館に日本人スタッフがいた。
 日本人でなくても、日本にいたことのある人が多い。

Q.日本語の資料は入手しにくいのでは。蔵書構成についてはどうか?
A.寄贈に頼っている館では、蔵書のバランスは悪くなっている。

Q.外国の人は、日本の何に興味を持っているのか?
A.若い人は、アニメや漫画に興味を持ち、日本語で見たり読んだりしたいということが勉強のきっかけになることが多いようだ。そのほかは、ビジネス・経済、政治研究、古典文学など。

Q.EAJRSでは、どんな発表がされていたのか?
A.平家物語とスペイン文学の比較研究、金閣寺をスペインに持ってきた時の温度変化、スペインと日本の建築物についてなど。

Q.日本語資料の図書室は、予算面、設備面、人事の面でどうなのか?
A.日本語の本はCJK(中国・日本・韓国)の中でもっとも高いうえに、予算が削られている。寄贈に頼ったり、不定期にくる予算に頼ったりしている。



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